日本政府がBTCを「通貨」と呼ばない理由|暗号資産改名の政治
あなたはビットコインを「暗号資産」と呼んでいますか。それとも「通貨」と呼んでいますか。
この二つの言葉の違いは、単なる呼び方の問題ではありません。2020年5月、改正資金決済法の施行によって、日本では「仮想通貨」という公式呼称が「暗号資産」へと変わりました。金融庁はその背景をFATF(金融活動作業部会)の国際基準への対応として説明しています。しかし、この言葉の選択の裏には、もう少し立ち止まって考えるべき論点が隠れています。
「通貨」と呼べない、国家の事情
もしビットコインが法律上「通貨」として定義されていたら、どうなっていたでしょうか。
通貨と認定することは、決済手段としての機能を国家が正式に承認することを意味します。国境を越えて自由に送金でき、誰も発行を独占できず、誰にも停止できない通貨——それを「通貨」と呼ぶことは、中央銀行や既存の決済インフラが担ってきた役割の代替を、国が認めることになりかねません。
「資産」という言葉は、この問題を巧妙に回避します。資産であれば、売買や保管は規制された取引所を通じて行われるという前提が成り立ちやすくなります。行政の目が届く範囲で管理され、必要なら課税もしやすい。「暗号資産」という名称は、その制度設計と非常に相性がよいのです。
言葉が作る「普通」の保有スタイル
法律の言葉は、人々の行動を形成します。「暗号資産」という名称が定着した結果、日本のビットコイン保有者の多くは、取引所口座で保有するスタイルを「普通」として受け入れました。
取引所の残高画面に表示された数字を見て、「自分はBTCを持っている」と感じるのは自然なことです。しかし、その数字は、取引所が何らかの理由でサービスを停止した瞬間に、自由にアクセスできなくなるリスクをはらんでいます。
日本では取引所に顧客資産の分別管理が法律で義務付けられており、法的な保護は存在します。ただし、それは「いつでも引き出せる」ことを無条件に保証するものではありません。マウントゴックスの破綻後、顧客が資産の返還を受けるまでに10年以上かかりました。制度上の保護と、実際にアクセスできるかどうかは、まったく別の問題です。
サトシが設計した通貨の本質
ビットコインのホワイトペーパーのタイトルは「A Peer-to-Peer Electronic Cash System」です。中間業者を必要とせず、個人間で直接やり取りできる電子現金——サトシ・ナカモトはそう設計しました。
この設計思想において、秘密鍵(プライベートキー)は非常に重要な意味を持ちます。ビットコインのネットワーク上で「誰がどのBTCをコントロールできるか」は、秘密鍵によってのみ決まります。取引所に預けている状態では、秘密鍵は取引所が管理しており、あなたは取引所に「引き出しを要求できる立場」にあるということです。
「暗号資産」という言葉は、この根本的な構造の違いを見えにくくします。資産の保管として語られると、取引所への預け入れが銀行口座と同じ感覚で受け入れられてしまいます。しかしビットコインの秘密鍵を自分で管理することと、取引所に預けることは、性質がまったく異なります。
「暗号資産」時代のセルフカストディ
国がビットコインを何と呼ぼうと、プロトコルは変わりません。ビットコインのブロックチェーンは2009年の稼働以来、一度も停止したことがなく、サトシが設計した通りに動き続けています。アルトコインの多くが「新技術」を謳いながら運営会社の都合で変更・停止されてきたのとは、根本的に異なります。
ハードウェアウォレットで秘密鍵を自分で管理すれば、取引所の閉鎖も、規制の変化も、サービス障害も、あなたのビットコインへのアクセスを奪うことはできません。これは単なるセキュリティ上の対策ではなく、ビットコインを本来の姿——中間業者のいない自己主権的な通貨——として使うという選択です。
「暗号資産」という言葉に慣れてしまうと、取引所保有が当たり前に見えてきます。しかし、その言葉の背景にある制度設計の意図を知ったうえで、自分のビットコインをどこに置くかを選ぶことが大切です。
取引所の残高画面を見て安心している方は、一度だけ立ち止まって考えてみてください。あなたの秘密鍵は、今どこにありますか。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
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