ハッシュレート80%が折れた日|ブロックサイズ戦争が証明したこと

2017年8月1日、ビットコインのブロックチェーンが二つに分かれた。

その瞬間、取引所にビットコインを預けていた人たちは、自分の資産がどうなるかを自分で決められなかった。分岐によって誕生した新しいコイン(ビットコインキャッシュ)を受け取れるかどうか、いつ受け取れるか——それはすべて、預け先の取引所が独自に定めた方針に委ねられていた。

ハッシュレートの80%を握った企業連合

発端は2015年頃に遡る。ビットコインのブロックサイズを巡り、ネットワーク参加者の間で対立が深まった。「ブロックを大きくして処理能力を高めるべきだ」と主張したのは、大手取引所・決済企業・マイニングプールから成る連合だ。彼らが掌握していたのは、当時のネットワーク全体のハッシュレートのおよそ80%。数字だけ見れば、圧倒的な多数派に思えた。

彼らは「SegWit2x」と呼ばれる仕様変更案を強行しようとした。もしこれが通れば、ビットコインの基本ルールが企業連合の都合で書き換えられることになる。分散型通貨を標榜するビットコインにとって、これは設計思想そのものへの挑戦だった。

企業連合が見落としていた「もう一つの参加者」

ビットコインネットワークには、マイナー以外にも重要な役割を担う存在がいる。フルノードを自分で運営する個人だ。彼らはブロックチェーンの全履歴を自身で検証し、「正しいビットコイン」のルールを自律的に守る。取引所でも企業でもなく、名もなき個人の集合体だ。

2017年の攻防で、世界中のノード運営者たちは企業連合の提案を拒否した。ハッシュレートを持つ側がどれだけ圧力をかけても、ノード側が「これはビットコインではない」と判断すれば、その変更は本物のビットコインにはならない。プロトコルの正統性を決めるのは、マイニングシェアではなくルールへの合意だった。

企業連合は最終的に折れた。分岐したビットコインキャッシュは独自チェーンとして存続しているが、現在の価格はビットコインの1%にも届かない。市場は、どちらが「本物」かを静かに、しかし明確に示した。

取引所ユーザーに選択権はなかった

この歴史的な攻防において、取引所にビットコインを預けていたユーザーは一つの事実に直面した——自分の資産をめぐる判断を、自分で下せなかったという事実だ。

フォーク前後の対応方針は取引所ごとに異なり、ビットコインキャッシュの付与が遅れた取引所もあった。出金を一時的に制限したケースもある。自分のビットコインがどのタイミングでどちらのチェーンに紐づくかは、ユーザーにはコントロールできなかった。

一方、フォーク前から秘密鍵を自分で管理していたユーザーはまったく異なる立場にいた。秘密鍵さえ保持していれば、分岐した両方のチェーンで同額のコインを保有できる。どちらを手放し、どちらを持ち続けるか——その選択は完全に自分にあった。

セルフカストディの意味は、日常的な「安心感」だけではない。こうした歴史的な局面で、選択権を誰が持つかに直結する。

ビットコインが「誰のものにもならない」理由

ブロックサイズ戦争は、ビットコインの分散性が機能することを実証した出来事だった。資本力・ハッシュレート・業界影響力を持つ企業連合ですら、プロトコルのルールを一方的に塗り替えることはできなかった。

この構造は今も変わっていない。ビットコインのルール変更には、採掘者だけでなくノード運営者の合意が不可欠だ。特定の企業や国家が「支配」できない設計が、今日まで維持されている。

しかしその恩恵を受けられるかどうかは、自分が秘密鍵を持っているかどうかにかかっている。取引所に預けている状態では、プロトコルへの参加権はあっても、資産の管理権は取引所側にある。システム障害、規制対応、フォーク対応——判断を下すのは取引所になる。

ブロックサイズ戦争から8年が経った。次の政治的な攻防がいつ来るかはわからない。そのとき、あなたは自分の意思で選択できる立場にいるか、今一度確認してほしい。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。

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