ウォレットの自動選択が匿名BTCを消す|Coin Controlという防衛線
セルフカストディしているから大丈夫、と思っていませんか。
ハードウォレットを買い、秘密鍵を自分で管理し、取引所から引き出した。それだけで満足していると、ある1つの操作でその努力が水泡に帰します。UTXOを「自動選択」した瞬間です。
ビットコインの残高は「硬貨の束」
ビットコインの残高は、銀行口座のように単一の数値で管理されているわけではありません。「UTXO(未使用トランザクション出力)」と呼ばれる個々の単位の集まりです。
わかりやすく言えば、1万円札が5枚と1000円札が3枚の入った財布のようなものです。表示される残高は合計額ですが、実際には個々の「お札」がそれぞれ独自の来歴を持っています。
取引所でKYC(本人確認)を経て購入したBTCはKYC情報と紐付いたUTXO、P2Pや非KYCルートで取得したBTCは追跡が困難なUTXOとして、ウォレット内に別々に存在します。この区別が崩れるのが、自動選択の瞬間です。
自動選択が「混在」を生む
多くのウォレットは、送金時にUTXOを自動で選択します。ユーザーが「0.05BTC送金」と指示すると、ウォレットが内部で最適なUTXOを組み合わせてトランザクションを構成します。この機能は便利ですが、KYCのUTXOと非KYCのUTXOが同じトランザクションで使われてしまう危険があります。
1つのトランザクションに複数のUTXOが含まれると、ブロックチェーン分析の世界では「CIOH(共通入力所有ヒューリスティック)」と呼ばれる推定が適用されます。同一トランザクションで使われた入力は、すべて同一人物のものである可能性が高い——この前提です。
KYCで本人が確認済みのUTXOが1つでも混じっていれば、同じトランザクションで使われた非KYCのUTXOも芋づる式に紐付きます。過去に遡って、全ウォレットが追跡の対象になります。
「推定」で十分な理由
「あくまで推定では」と思うかもしれません。しかし、Chainalysisなどのブロックチェーン分析企業はCIOHを土台に、政府機関と連携しながら調査を進めます。クラスター全体にKYC済みアドレスが1つ含まれれば、所有者の特定に推測の余地はほとんどありません。
この手法を含む分析技術によって、推定数十億ドル相当のBTCが特定されてきた実績があります。一度混在させたUTXOは、過去の全トランザクションに遡って影響を及ぼします。セルフカストディへの移行で追跡が終わったわけではなく、その後の送金操作でリセットされることもあります。
Coin Controlという選択
解決策は、UTXOを手動で選ぶことです。これを「Coin Control(コインコントロール)」と呼びます。
Sparrow WalletやBitcoin Core、Specter Desktopなどは、送金時にどのUTXOを使うかをユーザーが指定できます。KYCルートで取得したUTXOと非KYCのUTXOを分けて使うことで、意図しない混在を防げます。
難しい技術ではありません。「どの財布から払うかを意識する」という習慣です。UTXOにラベルを付け、用途に応じて使い分ける。それだけでプライバシー管理の質は大きく変わります。
この機能は取引所に永遠に存在しない
ここに、セルフカストディの本質があります。Coin Controlは、自分のウォレットを持っている人にしか使えない機能です。
取引所にBTCを預けたままでは、どのUTXOを使うかどころか、自分のBTCがどのUTXOに対応しているかすら確認できません。出金のたびに取引所が内部でUTXOを選択し、ユーザーには何の制御権もありません。
セルフカストディは「秘密鍵を持つこと」だけを意味しません。UTXOをどう扱うかを自分でコントロールできる、という権限まで含みます。取引所管理ではこの制御が根本的に不可能であり、その点においてプライバシーの主導権は最初から存在しません。
今日から始められること
現在使っているウォレットがCoin Controlに対応しているかどうかを確認することから始めてください。対応しているなら、まず自分のUTXO一覧を眺めてみることをお勧めします。
KYCルートで取得したもの、取引所から引き出したもの、P2Pで入手したもの——それぞれの出所を把握し、ラベルを付けておくだけで、意識は大きく変わります。1つの送金操作が、過去の全アドレスを繋いでしまう。その事実を頭に置いた上で、次の送金ボタンを押してください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
この記事が参考になったら、セルフカストディの具体的な始め方もチェックしてみてください。
LINE登録でセルフカストディの始め方を学ぶ 正しい手順を無料でお届けします