同じ市内では守れない|シードフレーズ地理的分散の原則
2024年1月1日、石川県能登半島をマグニチュード7.6、最大震度7の地震が襲いました。数千棟が全壊・半壊し、火災が延焼した集落もありました。
あなたはそのニュースを見たとき、シードフレーズの保管場所を思い浮かべましたか?
「分散した」は本当に分散か
シードフレーズを複数の場所に置いているビットコイン保有者は少なくありません。しかし「分散している」と答える人の多くが、実際には同じ市内の2か所に置いているだけです。自宅と職場、自宅の金庫と自宅の引き出し、自宅と車の中――こうした「分散」は、広域災害の前では機能しません。
能登半島地震では、輪島市・珠洲市を中心とした広い範囲が同時に甚大な被害を受けました。同じ市内に2か所置いていたとしても、どちらも同じ震度・同じ火災リスクにさらされます。「別の場所に置いてある」という安心感が、最も気づきにくい盲点です。
有効な地理的分散が満たすべき3条件
自然災害に対して意味を持つ地理的分散には、3つの条件があります。
まず、異なる都市・異なる都道府県であること。同じ県内でも近距離であれば、同一の地震動域や洪水ハザードゾーンに入ることがあります。目安として、直線距離で100km以上の間隔を持たせることが推奨されます。
次に、それぞれが独立した建物であること。同じマンションの別の部屋、あるいは同じ建物内の貸金庫室では、建物倒壊時に同時に失います。
そして、単一のインフラに依存しない場所であること。電力・交通が同時に寸断される地域を複数の保管場所に選ぶことは避けます。首都直下・南海トラフ・日本海側の地震といった複数のシナリオを想定し、どの組み合わせでも3か所が同時に被害を受けない配置を目指すことが理想です。
現実的な3拠点の設計
拠点① 自宅(主拠点)
日常的なアクセスが可能な場所。耐火・耐水ケースや金属プレートへの刻印が望ましいですが、ここが唯一の保管場所になっていることが問題です。自宅が消えれば、すべてが消えます。
拠点② 100km以上離れた親族の家など
遠方の実家や信頼できる知人の家が候補です。ここで重要なのは、預ける相手に「中身が何か」を伝える必要はないという点です。後述のシャミア秘密分散を使えば、相手が受け取るのは単独では意味を成さないシェアのみです。「大切なものを保管してほしい」と頼むだけで十分です。
拠点③ さらに別の地域
銀行の貸金庫(月額500〜2,000円程度)、弁護士事務所、または別の親族の家。拠点①②とは地理的に独立していることが条件です。3か所のいずれか1つが失われても、残り2か所からビットコインを復元できる設計を目指します。
シードをそのままコピーしない理由
3拠点にシードフレーズを「そのままコピーして保管」する方法もありますが、これには別のリスクがあります。3か所のうち1か所に侵入された時点で、攻撃者はビットコインを奪えます。保管場所が増えるほど、漏洩の機会も増えます。
シャミア秘密分散(Shamir’s Secret Sharing)を使うと、この問題を解消できます。シードフレーズを複数の「シェア」に分割し、設定した数が揃わなければ復元できない設計にします。たとえば「2-of-3」で構成すれば、3か所のうち2か所のシェアが必要になります。1か所が失われても残り2つで復元でき、1か所だけが盗まれても攻撃者は何もできません。
ただし注意点があります。シャミア秘密分散には複数の実装があり、ウォレットによって対応する仕様が異なります。作成時に使ったソフトウェアが将来も利用可能かどうかを確認し、復元手順を別途書面で保管しておくことが不可欠です。「シェアは手元にあるが開けない」という事態を防ぐためです。
今夜確認すべきこと
あなたのシードフレーズは、今どこに保管されていますか。
その保管場所が震度6強以上の地震に同時に見舞われたとき、2か所以上が無事でいられますか。答えが「分からない」なら、それが設計を見直すサインです。
すべてを今すぐ変える必要はありません。まず「100km以上離れた、もう1か所」を1つだけ決めることから始めてください。ビットコインは秘密鍵を持つ者だけの資産です。シードフレーズが消えれば、BTCも永久に消えます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
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