取引所BTCの相続に3ヶ月以上かかる現実とCLTVの解答
家族がビットコインを残してくれた。取引所に保管されたその資産を、遺族はどうやって受け取るのか。手続きを調べ始めると、予想外の現実が見えてくる。
相続申請に必要な書類
取引所へのBTC相続申請は、銀行口座の相続よりも複雑になるケースが多い。一般的に要求される書類は、被相続人の戸籍謄本(出生から死亡までの連続したもの)、死亡診断書、相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明書、遺産分割協議書または家庭裁判所が関与した遺言書、そして各取引所が定める独自の申請書類だ。
戸籍謄本の収集だけで数週間かかることは珍しくない。被相続人が複数回の転籍をしていれば、各自治体を遡って取り寄せる作業が発生する。書類が揃った後も、取引所の内部審査に時間がかかる。スムーズに進んでも3ヶ月を要することは十分あり得る。手続きが終わるまで、コインは動かない。
手続きの途中で取引所が傾いたら
もう一つの問題がある。相続手続きの進行中に、取引所が経営難に陥ったとしたら。
取引所は資金決済法に基づく分別管理義務を負っており、顧客資産は取引所固有の財産とは区分される。しかし、取引所が破綻すれば払い出しは止まり、破産手続きの中で債権者として列を作るしかなくなる。手続きが完了していない段階で同様の事態が起きれば、遺族は書類を揃えた上でさらに年単位の手続きを待つ可能性がある。
マウントゴックスの場合、破綻から顧客へのBTC返還まで10年以上かかった。相続手続きと取引所の経営危機が重なったとき、「数ヶ月」は「数年」になりかねない。
CLTVとは何か
ビットコインには、指定した時刻まで誰も動かせないようにコインをロックする機能がある。CLTV(CheckLockTimeVerify)だ。
CLTVはビットコインのスクリプト言語に組み込まれた命令で、指定したブロック高(またはUNIXタイムスタンプ)に達するまで送金を不可能にする。これはプロトコルレベルで強制される制約であり、第三者の承認も審査も必要ない。ブロックチェーンがそのブロック高を越えた瞬間に、条件を満たした人だけがコインを動かせるようになる。
具体的には「2年後以降に、この公開鍵の署名がある場合のみ送金を許可する」という条件をスクリプトとして書くことができる。取引所の生き死にも、審査担当者の判断も、書類の不備も関係ない。設定した条件がブロックチェーン上に刻まれ、それだけが判断基準になる。
取引所はCLTVを絶対に設定しない
この機能はセルフカストディでのみ使える。
取引所がCLTVを顧客向けに提供することは、構造上あり得ない。取引所はすべての顧客資産をまとめて管理しており、個別ユーザーのために時間制御スクリプトを設定することはできない。仮に設定できたとしても、アンロックの条件を決める権限が取引所にある時点で、それは「タイムロック」ではなく「取引所の裁量」に変わる。
秘密鍵が取引所にある限り、時間制御の機能は永遠に使えない。自分が鍵を管理しているときにだけ、CLTVの恩恵は届く。
相続だけの話ではない。積立期間中は自分でも動かせないように封印したい、子が成人するまで受け取れないようにしたい、そうした時間的な意思決定をプロトコルに委ねられる。しかしその選択肢は、セルフカストディを選んだ人にしか開かれていない。
遺族に届けられる設計を持てるか
遺言書があっても、取引所の手続きは省略できない。相続人が取引所に連絡し、書類を揃え、審査を待つプロセスは遺言書の有無とは独立して存在する。
セルフカストディとCLTVを組み合わせれば、遺族への引き渡しをプロトコルに設計として組み込める。取引所の経営状態や審査担当者の都合に左右されない形で、BTCを次の世代に渡す仕組みを作れる。
自分の秘密鍵を持っているかどうかで、遺族に届けられる選択肢の幅は大きく変わる。取引所に預けたまま亡くなった場合、残された家族が直面する手続きの重さを、一度具体的に想像してみることをすすめる。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
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