干ばつが円を溶かす仕組み|取引所BTCが抱える二重リスク

2023年の夏、パナマ運河で異変が起きていた。

記録的な干ばつによって水位が急落し、通過できる船舶の数が通常の約38隻/日から22隻/日に絞られた。じつに40%近い減少だ。この事実を知ったとき、あなたはどう感じただろうか。「遠い話だ」と思ったなら、それは少し危険な感覚かもしれない。

水不足が物価を押し上げる経路

パナマ運河は世界貿易の約5%を担う輸送の要衝だ。ここを通る船が減れば、代替ルートを使うか、長時間待機するかしかない。どちらも時間とコストがかかる。

輸送コストの上昇は、そのまま輸入品の値上がりに転嫁される。日本は食料品からエネルギーまで輸入依存度が高く、輸送費が乗れば消費者が支払う金額はじわりと増える。これがインフレの一形態だ。

問題は、このインフレが誰かの「意図」ではなく、地球の水不足という物理現象から始まっている点にある。金融政策でも政府の決断でもない。太陽と雨雲が引き金を引くのだ。

法定通貨はリスクを「吸収する」構造になっている

円という通貨は、あらゆる地政学的・物理的リスクを「購買力の低下」として受け取る設計になっている。

戦争が起きれば、資源が高騰して物価が上がる。気候変動で干ばつが増えれば、輸送コストが跳ね上がる。中央銀行がお金を刷れば、流通量が増えた分だけ一枚一枚の価値が薄まる。どの経路をたどっても、最終的には円の購買力が削られていく。

これは円に限った話ではない。ドルもユーロも、国家が発行する法定通貨である限り、地政学リスクの「受け皿」になる構造から逃れられない。パナマの干ばつは、その構造を改めて可視化した出来事だった。

取引所BTCが抱える二つのリスク

こうした話を聞いて、「だからBTCを持っているんだ」と思う人もいるだろう。発行上限2100万枚という固定された供給量は、中央銀行による増刷と無縁だ。地政学リスクに対する防衛手段として、BTCを選ぶ判断は理にかなっている。

ただし、そのBTCが取引所に預けたままであれば、問題は半分しか解決していない。

取引所でBTCを保有するということは、インフレによる購買力低下リスクを回避しながらも、もう一つのリスクを背負い続けることを意味する。それは、秘密鍵を自分で持っていないことから生じるアクセス不能リスクだ。

取引所が突然サービスを停止した、システム障害が長期化した、規制当局から出金停止命令が下された。こうした事態が起きたとき、秘密鍵を持たない利用者には「引き出しを要求する権利」しかなく、実際に引き出せるかどうかは取引所の状態次第になる。地政学リスクへの防衛線としてBTCを持ちながら、取引所という新しい単一障害点を作ってしまっている。これが二重リスクの正体だ。

「分別管理されているから安心」は十分ではない

日本の取引所は法律上、顧客の資産を分別管理する義務を負っている。これは重要な保護だ。しかし、分別管理があっても出金が止まることはある。

2024年のDMM Bitcoinの事例では、約482億円相当が流出し、その後6ヶ月以上にわたって出金・送金が制限された状態が続いた。法的に顧客の資産として保全されていても、実際に動かせるタイミングは取引所の状況に左右される。「法律上守られている」と「今すぐ引き出せる」は別の話であり、この区別を多くのBTC保有者は曖昧にしたまま資産を置き続けている。

セルフカストディが排除できるリスク

パナマ運河の干ばつが示したように、遠く離れた物理世界の出来事は、じわじわと法定通貨の購買力を侵食する。その防衛策としてBTCを持つ判断は正しい。しかしその防衛を完成させるためには、秘密鍵を自分で管理する必要がある。

ハードウォレットを使ってセルフカストディに移行すれば、少なくとも取引所起因のアクセス不能リスクは自分の手で排除できる。インフレから逃げようとして、取引所というリスクの中にBTCを置いたまま安心するのは、雨宿りのために川の中に入るようなものだ。

BTCを持つ目的が「地政学リスクや法定通貨の価値毀損から資産を守ること」であれば、秘密鍵をどこに置くかまで設計して初めて、その防衛は機能する。

あなたのBTCは今、誰が秘密鍵を持っているだろうか。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。

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