シードフレーズは破られない|宇宙800倍の計算と取引所リスク
あなたのシードフレーズを、誰かが偶然当てる可能性を考えたことがあるだろうか。
「もしかしたら、世界のどこかで同じ12語が生成されてしまうのでは」という不安を持つ人もいる。その疑問に正面から答えるために、数字を追いかけてみた。結果は、人間が日常的に扱うスケールをはるかに超えていた。
宇宙の年齢を800倍しても終わらない計算
12語のシードフレーズが持つ組み合わせ数は、2の128乗だ。数字として書くと39桁に達する、天文学的な規模になる。
では、これを力づくで調べ尽くすにはどれだけかかるか。世界最速のスーパーコンピュータが毎秒10の18乗回の速度でシードを試し続けたとする。それでも全ての組み合わせを試し終えるには、推定10兆年以上が必要になる計算だ。
宇宙の年齢は約138億年。10兆年はその約800倍にあたる。現在の宇宙が誕生してから今日まで、さらにその800倍の時間が経過しても、まだ試し終わっていない。
この数字が意味するのは明確だ。シードフレーズを「当て推量」で解読することは、現実的な計算能力の範囲において不可能だということだ。シードの偶然一致を心配する必要は、数学的にまったくない。
では、なぜビットコインは盗まれるのか
それでも、ビットコインの盗難は現実に起きている。毎年、世界中で数百億円規模の資産が失われているという報告がある。その理由は何か。
シードの「推測」ではない。盗難が起きる経路はほぼ決まっている。マルウェアに感染したPCでシードフレーズを表示してしまった、フィッシングサイトにシードを入力してしまった、アドレスをコピーした瞬間にクリップボードを書き換えられた、偽のハードウォレットを使った。これらはいずれも、シードを物理的・電子的に漏洩させる行為だ。
そして、もう一つの経路がある。最も多くの保有者が見落としている問題だ。
取引所に預けた時点で起きていること
取引所にビットコインを預けると、秘密鍵は取引所が管理する。あなたの手元にシードはない。
ここが核心だ。2の128乗という組み合わせ数が生み出す数学的な堅牢さは、秘密鍵を持つ者だけを守る。シードがあなたの手元にない限り、10兆年という計算時間はあなたとは無関係になる。
取引所がハッキングされれば、そこで管理されている秘密鍵が危険にさらされる可能性がある。経営が破綻すれば、資産の引き出しが長期間止まることがある。規制当局による資産凍結があれば、あなたが正当な保有者であっても、アクセスを失うことがある。過去には、分別管理が徹底されているはずの取引所でさえ、引き出しが数ヶ月にわたって止まった事例がある。
これらはすべて、シードの数学的安全性とは無関係に発生するリスクだ。暗号学的な設計がどれほど堅牢であっても、組織の信用リスクや法的リスクは別の問題として存在する。
数学の力を自分のものにする
セルフカストディとは、自分でシードフレーズを生成し、自分で保管することだ。これが意味するのは、宇宙の800倍もの時間をかけても解読できない数学の堅牢さを、初めてあなた自身のために機能させられるということだ。
もちろん、自己管理には責任が伴う。シードを紛失すれば誰も助けてくれない。保管場所が火災や水害で損なわれるリスクもある。だからこそ、金属プレートへの刻印、地理的な分散保管、パスフレーズの追加設定といった手段が重要になる。
ただし、これらのリスクはあなたが制御できる。取引所の経営判断も、規制環境も、あなたにはコントロールできない。コントロール可能なリスクを選ぶか、コントロール不能なリスクを受け入れるか。その選択が、セルフカストディの本質だ。
鍵を持つ者だけが守られる
「シードを当てられるのでは」という不安は、数字が証明するように根拠がない。本当の問題は、シードがあなたの手元にあるかどうかだ。
10兆年かけても破れない暗号の力は、鍵を自分で持つ人にだけ届く。取引所からビットコインを移すことをまだ先送りにしているなら、今日その一歩を踏み出してほしい。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
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