XT・Classic・Unlimited|3度の書き換えを退けた匿名の守護者
2015年の夏、ビットコインのコードを書き換えようとした動きが始まった。
当時の主張はシンプルだった。「ブロックサイズを大きくすれば、もっと多くの取引を処理できる。それがビットコインの普及に必要だ」。理屈は通っているように見えた。大手取引所、著名な投資家、採掘量で上位に入るマイニングプールまで賛成に回った。にもかかわらず、その試みは3年間で3回、完全に失敗した。
誰が、どのようにして失敗させたのか。この問いに答えることが、ビットコインという仕組みの核心を理解する近道になる。
BitcoinXT:最初の失敗(2015年)
「BitcoinXT」はビットコインのコアデベロッパーだったGavin Andersen氏とMike Hearn氏が主導したクライアントだ。ブロックサイズを1MBから8MBに引き上げ、将来的にはさらに拡大するロードマップを持っていた。
採掘ハッシュレートの75%が賛成すれば自動的に移行する設計だった。しかし蓋を開けてみると、賛成は最大でも20%台に留まった。2016年の初頭には支持者が離れ、静かに消えていった。
Bitcoin Classic:二度目の失敗(2016年)
次に登場したのが「Bitcoin Classic」だ。8MBは大きすぎるという批判を受け、まず2MBへの拡張を提案した。控えめな数字に変えることで合意を取りやすくする作戦だった。Coinbaseを含む複数の取引所が支持を表明した。しかし結果は変わらなかった。2017年には開発が停止し、提案は立ち消えになった。
Bitcoin Unlimited:三度目の失敗(2017年)
三度目は「Bitcoin Unlimited」だった。ブロックサイズの上限を採掘者が自由に決められる仕組みで、より柔軟な設計として登場した。一時期は採掘ハッシュレートの40%を超える支持を集め、今度こそフォークが実現するかに見えた。しかしコードの重大なバグが発見され、ネットワークの一部が停止するインシデントが起きた。信頼を失い、支持者は急速に離脱した。
3年間で3回の失敗。支持者の顔ぶれを考えると、この結果は驚くべきものだ。
本当の「守護者」は誰だったのか
ビットコインのネットワークでは、採掘者がブロックを生成する。しかし採掘者だけがネットワークのルールを決めるわけではない。
生成されたブロックを受け入れるかどうかを判定するのは、フルノードを動かしているユーザーだ。フルノードはビットコインのプロトコルを完全に実装したソフトウェアで、ルールに違反したブロックを自動的に拒否する。採掘者がどれだけ多数を占めても、フルノードが受け入れなければそのチェーンはビットコインとして認められない。
3つのフォーク提案が全て失敗したのは、世界中のフルノード運用者が既存のルールを変えないクライアントを動かし続けたからだ。彼らは大企業でも著名な開発者でもなく、名前のない個人ユーザーだった。
「お金が多い方が勝つ」「ハッシュレートが多い方が支配する」という直感は、ビットコインでは成立しない。ルールを執行するのは、独立して動く無数のフルノードの集合体だ。
取引所に預けたままでは参加できない
この「戦争」が進んでいた3年間、取引所にビットコインを預けていたユーザーはどういう立場にいたのか。
一言で言えば、傍観者だ。フォーク発生時にどのチェーンを「本物のビットコイン」と認定するか、分岐したコインをどう扱うか——これらの決定は全て取引所側が行う。ユーザーができることは、取引所の発表を待って受け入れることだけだ。秘密鍵を自分で管理していない以上、ルールの執行には関与できない。
秘密鍵を自分で管理し、フルノードを動かしていたユーザーは別の立場にいた。どのソフトウェアを使うかを自分で選択し、自分の判断でルールを執行した。ブロックサイズ拡大派の提案を退けたのは、こうした個人ユーザーの自立した判断の積み重ねだった。
セルフカストディはビットコインを安全に保管するためだけのものではない。ビットコインのルールそのものに関与するための条件でもある。鍵を持たない者は、重要な局面で自分の意思を反映させる手段を持たない。
ルールが変わらないことが価値を作る
ビットコインの発行上限は2100万枚で変わらない。採掘難易度は自動調整され、止まることがない。これらのルールが予測可能であり続けることが、長期保有の前提になる。
ブロックサイズ戦争はその前提が実際に試された場面だった。結果として、ルールは守られた。守ったのは取引所でも政府でもなく、フルノードを動かした名もなき個人ユーザーだった。
この構造はあなたが今日から参加できる形で機能している。まずは秘密鍵を自分で管理することから始めてほしい。それが、ビットコインのガバナンスへの最初の入口だ。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
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