PSBTが切り離す秘密鍵とネット|Coldcard3ステップの設計思想
ビットコインをセルフカストディしている方でも、送金のたびにPCとUSBで接続している状態を当たり前にしているケースが少なくありません。ハードウォレットを持っていれば安全、という認識は半分正しく、半分間違っています。
問題は「接続している時間の長さ」ではなく、「接続そのもの」にあります。
USBを繋いだ瞬間、攻撃面が生まれる
多くのハードウォレットは、送金時にUSBかBluetoothでPCと通信します。Ledger、Trezorなど主要製品の多くがこの設計を採用しています。
PCがマルウェアに感染していた場合、この接続経路が攻撃の入口になります。署名の瞬間にトランザクション内容が書き換えられたり、接続経路を通じた情報窃取が試みられる可能性があります。「送金ボタンを押す瞬間」は、実はセキュリティ上の最大のリスクポイントです。
PSBTとは何か
PSBTは「Partially Signed Bitcoin Transaction」の略で、BIP174として規格化されたフォーマットです。
一言で言うと、「署名の前後でトランザクションデータを分離して扱える仕組み」です。従来の方式では、トランザクションの作成から署名、ブロードキャストまでを一連の処理として行う必要がありました。PSBTはこれを「未署名のトランザクションデータ」「署名行為」「署名済みデータのブロードキャスト」に分割して扱えます。
この分割が、エアギャップ署名を可能にする核心部分です。
Coldcardが実現する3ステップ
Coldcardのエアギャップ署名フローは、次の3ステップで構成されます。
① ウォレットアプリでトランザクションをmicroSDに書き出す
SparrowやSpecterなどのウォレットアプリで送金先・金額を入力すると、「未署名のPSBTファイル」がmicroSDカードに書き出されます。この時点でColdcardはPCとまったく接続していません。
② Coldcard本体でオフライン署名する
microSDをColdcardに挿入し、本体のみで署名を行います。Coldcardはオフラインのまま動作し、秘密鍵はデバイスの外に一切出ません。秘密鍵がインターネットと接触する時間は、ゼロ秒です。
③ microSDをPCに戻してブロードキャストする
署名済みのPSBTファイルをmicroSDでPCに戻し、ウォレットアプリからビットコインネットワークへブロードキャストします。この時点でPCが扱うデータは「署名済みトランザクション」であり、秘密鍵は含まれていません。
PCがマルウェアに感染していても、このフローでは秘密鍵がPCに届くことはありません。攻撃できる場所がそもそも存在しない設計です。
microSDという媒体の意味
microSDはUSBやBluetoothと違い、双方向のリアルタイム通信を行いません。ファイルを書き込んで抜き、別のデバイスに挿して読む、それだけです。
この単純さが安全性の根拠になります。接続経路がなければ、マルウェアが通る経路もありません。シンプルな設計ほど、攻撃者にとって介入の余地が少なくなります。
取引所との根本的な差
取引所にBTCを預けている場合、そもそも秘密鍵はあなたの手元にありません。送金の許可・拒否、タイミングの決定権はすべて取引所が持っています。マルウェア対策以前に、BTCの操作権限そのものが自分にない状態です。
日本の資金決済法のもとで、取引所は顧客資産を分別管理する義務を負っています。ただし取引所に何らかの問題が発生した場合、BTCを即座に引き出せる保証はありません。DMM Bitcoinの482億円流出事件では、ユーザーは数ヶ月間出金を待ち続けました。
秘密鍵を持っているということは、送金の可否を誰にも問わなくていい状態を意味します。PSBTエアギャップ署名は、その「誰にも問わない」を送金操作の技術レベルまで徹底した仕組みです。
実際に試してみる
PSBTフローはColdcardとSparrow Walletの組み合わせで試せます。SparrowはオープンソースのビットコインウォレットでPSBT署名に標準対応しており、設定も難しくありません。
最初の送金は、少額から始めるのが原則です。PSBTファイルを正しく扱えているか、署名済みファイルが正常にブロードキャストされるかを確認した上で、日常的な管理に組み込んでいきましょう。
ハードウォレットを持っているにもかかわらず、毎回USB接続で使い続けているなら、PSBTフローへの移行を今日から検討する価値があります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
この記事が参考になったら、セルフカストディの具体的な始め方もチェックしてみてください。
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