Silent Payments 2024年正式化|プライバシー技術が届く人・届かない人

誰かにビットコインを受け取るたびに、同じアドレスを渡していませんか?

便利だから、慣れているから、という理由で使い続けているそのアドレスは、あなたの取引履歴を誰でも見られる形で外に出し続けています。ブロックチェーンは変わらない。過去のすべての着金が同一アドレスに紐づき、残高も取引相手も、時刻まで丸ごと公開されている状態になっています。

静的アドレスは公開日記になる

ビットコインのアドレスは、設計上「1回使い捨て」が正しい使い方です。しかし現実には、寄付の受け付けや継続的な送金、名刺やサイトへの掲載など、同じアドレスを繰り返し使うシーンは多くあります。

ブロックチェーンエクスプローラーというツールは、誰でも無料で使えます。アドレスを入力すると、そのアドレスへの全送金履歴、現在の残高、送金元アドレスとの関係性が瞬時に表示されます。

「自分の総資産を追跡者に知られたくない」「取引相手に過去の収支を見られたくない」。そんな正当な感覚が、アドレスの再利用によって踏みにじられる。これはビットコインの設計上の欠点ではなく、使い方の問題です。しかし「欠点ではない」と知っていても、利便性とプライバシーの間でどちらを選ぶか迷い続けている人は少なくありません。

BIP-352が「Silent」である理由

2024年に正式化されたBIP-352、Silent Paymentsはこのジレンマを解消します。

仕組みを簡単に言えば、「受信側は1つの静的アドレスを公開するだけで、着地するオンチェーンアドレスは毎回自動的に変わる」というものです。

技術的にはECDH(楕円曲線Diffie-Hellman鍵交換)を使います。送金者は受信者の静的アドレスと自分の一時的な鍵を組み合わせて、ユニークな使い捨てアドレスを計算します。このアドレスを復元できるのは受信者の秘密鍵だけです。外部のブロックチェーン観察者には、どのアドレスが同一人物に属するかを関連づける手がかりがありません。

公開する情報は1つ。しかし毎回異なる場所に着地する。履歴は連結されない。これが「Silent」と呼ばれる理由です。CoinJoinのように参加者を集めて送金を混同させる必要もなく、送金側が対応ウォレットを使うだけでよい。プライバシー技術の中でも、使いやすさと効果のバランスが高い手法として評価されています。

技術は正式化された。では誰が使えるか

Silent Paymentsを実際に活用するための前提条件は2つあります。

1つは、BIP-352に対応したウォレットを使うこと。現時点ではSparrow Walletなど対応ソフトウェアが選択肢として存在します。

もう1つ、そして本質的な条件は、自分の秘密鍵を持っていることです。

Silent Paymentsの静的アドレスは秘密鍵から生成されます。届いたビットコインを受け取れるのも、その秘密鍵を持つウォレットだけです。取引所にビットコインを預けている場合、秘密鍵はあなたの手元にありません。Silent Paymentsの仕組みに必要な計算を行う主体は取引所のシステムであり、あなたではないのです。

仮に取引所がSilent Paymentsへの対応を表明したとしても、もう一つの現実があります。KYC(本人確認)義務を持ち、規制当局への報告責任を負う取引所が、トランザクションの関連付けを意図的に難しくする技術を率先して採用する動機はほとんどありません。技術として実装できるかどうかとは、まったく別の話です。

プライバシー技術は鍵の在り処で届く範囲が決まる

これはSilent Paymentsだけの構造ではありません。

Taprootのマルチシグ効率化、CoinJoinによるUTXO混合、BOLT12の匿名ライトニング決済。ビットコインプロトコルに加わった技術の恩恵は、一貫して「自分の秘密鍵を持っている人」にしか届きません。取引所に預けたビットコインをどのウォレットで、どの技術を使って管理するかの選択権は取引所にある。Silent Paymentsを使うかどうかも、あなたが決めることではありません。

プライバシー保護技術の更新は今後も続きます。その都度、自分の秘密鍵を持っていれば最新の技術をすぐに使える立場にある。持っていなければ、取引所が対応するまで待つか、対応されないまま終わるかのどちらかです。

今の選択が数年後のプライバシーを決める

2024年に正式化されたSilent Payments対応のウォレットは、すでにいくつか存在します。セットアップに必要な時間は数時間以内です。ハードウォレット1台と、BIP-352対応のウォレットソフト。それだけで、取引履歴が連結されない受信環境が手に入ります。

履歴を積み上げてから後悔するより、静的アドレスを今日用意する方が遥かに簡単です。ビットコインのプライバシーを守る技術は今ここにある。あとは使える立場に自分を置くかどうかだけです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。

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