採掘者40%賛成でも否決|BTCの議決権を持つのは誰か

取引所にビットコインを預けたまま「これは自分のBTCだ」と思っているとしたら、見落としていることがある。

管理権の問題だけではない。ビットコインのルールを守る権利の問題だ。

40%の支持がゼロになった日

2017年、Bitcoin Unlimited(BU)という提案がビットコインコミュニティを揺るがした。ブロックサイズの上限を撤廃し、採掘者が自由にブロックを大きくできるようにするというものだ。

支持者の論理は一見まともに聞こえた。「ブロックが大きくなれば、より多くの取引が処理できる。普及が加速する」。採掘プールの約40%がこの提案に賛同し、ハッシュレートの面では圧倒的な影響力を持っていた。

通常の民主主義なら、40%の支持は強力な少数派だ。しかしビットコインでは、その40%は何の効力も持たなかった。

採掘者は「ルールの決定者」ではない

ここに多くの人が抱える根本的な誤解がある。採掘者(マイナー)は、ビットコインのルールを「決める」立場にない。

採掘者の役割は、ブロックを生成して取引を記録することだ。電力とハードウェアを使って仕事をする代わりに報酬を受け取る。インフラを提供するサービス業者に近い。

ルールを守るかどうかを決めるのは、フルノード運用者だ。フルノードとは、ビットコインの全取引履歴を自分で検証するソフトウェアを指す。世界中に存在する数万台のフルノードが、新しいブロックを受け取るたびに「このブロックはプロトコルのルールに従っているか」を独自にチェックする。

BUが採掘した「ルール変更済み」のブロックを、世界中のフルノードが一斉に拒否した。40%のハッシュレートがあっても、フルノードに受け入れられなければそのブロックはネットワーク上で無効だ。その後BUでは致命的なバグが相次いで発見され、信頼を失った開発陣は結局撤退した。

「多数決」ではなく「検証」が支配する

株主総会なら、40%の株式を持てば相当の発言力を持つ。だがビットコインは根本的に違う仕組みで動いている。

フルノードは自分のルールに合致しないブロックを、理由を問わず拒否できる。採掘プール側がどれだけハッシュレートを持とうと、フルノードが受け入れなければそのブロックは「存在しない」も同然だ。

1台のフルノードが持つ検証の力は、1兆円の資産を持つ機関投資家の1台と対等だ。資産量でも政治力でもなく、ノードを動かしているかどうかがビットコインの「有権者」の条件になる。

取引所に預けると何を失うのか

ここからが、取引所にBTCを置いているユーザーに直接関係する話になる。

取引所は顧客から預かったビットコインを管理するために、独自のフルノードを運用している。取引所が使っているノードが「どのルールに従うか」を決める。あなたが取引所にBTCを預けている間、あなたはフルノードを持たない。

ビットコインのルールが変わろうとする局面で、あなたは「参加者」ではなく「傍観者」になる。取引所が採用したルールがそのままあなたのBTCに適用される。もし取引所がBUのようなフォークを採用する判断をしたとしたら、あなたには異議を唱える手段がない。

これは所有権の問題ではない。日本の資金決済法上、取引所は顧客資産を分別管理する義務を負っている。だがどのルールのビットコインを動かすかを決める権限は、ノードを持つ者にある。取引所にBTCを預けることは、その決定権を取引所に委ねることを意味する。

BTCの民主主義に参加するための条件

2017年に40%の採掘ハッシュレートを無効化したのは、名もない世界中のフルノード運用者たちだった。大規模ファンドでも有名な開発者でもなく、自分のパソコンやサーバーでノードを動かしていた普通の人々だ。

フルノードの運用は、現在では技術的なハードルが大幅に下がっている。Raspberry Piなど小型コンピュータに専用ソフトウェアをインストールすれば、数万円で参加できる環境が整っている。

セルフカストディは「取引所が経営危機に陥ったときのリスクヘッジ」として語られることが多い。だがそれだけではない。自分の秘密鍵でBTCを管理することは、ビットコインのルールを守る側に立つかどうかという選択でもある。

まずは、自分の秘密鍵でBTCを引き出すことから始めてほしい。それがビットコインの民主主義への、最初の一票になる。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。

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