銀行が先に動いた2年間|FRB増刷とBTCセルフカストディ

2022年夏、日本でも電気代や食料品の値上がりが家計を直撃した。多くの人がそのとき初めて「インフレ」を肌で感じたはずだ。しかし、そのインフレの火種となったお金が刷られたのは、2年前のことだった。

2020年3月、新型コロナウイルスのパンデミックを受けてFRBは前例のない規模の量的緩和を実施した。約4.7兆ドル。日本円にして500兆円を超える規模の資金供給だ。しかしそのお金は、すべての人に同時に届いたわけではない。

お金が届く順番という構造

中央銀行が資金を供給するとき、最初の受け取り手は商業銀行だ。銀行は低金利で資金を調達し、その資金で株式や不動産を購入する。次に大企業が社債発行や融資を通じて資金にアクセスし、設備投資やM&Aに充てる。

一般市民にお金が届くのは、その後だ。賃金上昇という形で、あるいは政府の給付金という形で。だが、その頃には最初の受け取り手たちがすでに資産を買い占めた後であり、物価は上昇し始めている。

これをカンティヨン効果と呼ぶ。18世紀のアイルランド人経済学者リチャード・カンティヨンが指摘した、お金の配布における時間差の不公正だ。先にお金を受け取った者は、物価が上昇する前に資産を購入できる。後から受け取った者は、すでに値上がりした資産を高い価格で買わざるを得ない。

2020年から2022年に起きたこと

FRBが4.7兆ドルを供給した2020年から、一般市民がインフレを実感した2022年の間に何が起きたか。

S&P500は2020年3月の底値から2021年末にかけて約100%上昇した。米国住宅価格のケース・シラー指数は同期間に約30%上昇している。株式や不動産をすでに保有していた側の人たち、つまりお金が早く届いた側は、資産が大きく膨らんだ。

一方、貯蓄を現金や預金口座で持っていた人は何も得られなかった。2022年にCPI(消費者物価指数)が前年比8%超に達したとき、資産価格の上昇はすでに終わっていた。同じ金額を貯め続けても、買えるものが減っていた。

量的緩和が繰り返されるたびに、この格差は静かに、しかし確実に積み重なっていく。お金の印刷は格差を是正しない。むしろ、先に受け取った者と後から受け取った者の間に、新たな格差を生み出す。

BTCという選択肢の意味

ビットコインは、この構造に対抗できる数少ない資産の一つとして注目されてきた。発行上限は2100万枚。誰の命令によっても増刷できない。FRBが4.7兆ドルを刷っても、BTCの総量は変わらない。

実際、2020年3月から2021年11月にかけてBTCの価格は約15倍になった。カンティヨン効果によって購買力を奪われた一般市民の一部が、BTCを通じて資産を守ることに成功したのは事実だ。

しかし、ここで注意すべき点がある。BTCを「持っている」と「いつでも動かせる状態で持っている」は、まったく別のことだ。

取引所預けが生むアクセスリスク

国内の暗号資産取引所にBTCを預けている場合、そのBTCを実際に動かせるかどうかは取引所の状況に左右される。

取引所が経営危機に陥った場合、出金制限が課されることがある。2022年、複数の海外暗号資産レンディング企業が連鎖的に経営破綻し、数十万人が自分の資産にアクセスできなくなった。規制当局の調査が入った場合にも、一時的に出金が止まることがある。

日本の資金決済法は取引所に顧客資産の分別管理を義務付けており、法律上は顧客の資産として保護される建て付けになっている。しかし実際の問題は、法的な権利があっても、システムが停止していれば物理的に引き出せないという点だ。

インフレで購買力を奪われながら、BTCを保有しているのにその恩恵も受け取れない。これが取引所預けの構造的なリスクだ。カンティヨン効果への対抗手段を持ちながら、危機の瞬間にその手段を使えない状況になりかねない。

秘密鍵が与える独立性

BTCのセルフカストディとは、ハードウォレットを用意し、秘密鍵を自分で管理することを指す。秘密鍵さえ自分で持っていれば、取引所の経営状態に関係なく、BTCを動かせる。

BTCは、秘密鍵を持つ者だけがブロックチェーン上で資産を動かせる仕組みになっている。秘密鍵を持たない保有は、動かせる権限のない保有に過ぎない。取引所残高というのは、あくまでシステムが正常に動いているときにのみ意味を持つ数字だ。

2020年の増刷から2022年のインフレ到達まで、銀行には2年の先行優位があった。次の量的緩和サイクルが始まったとき、あなたはどの順番に立っているだろうか。

取引所からハードウォレットにBTCを移す。その一歩が、カンティヨン効果の末端から自分の意志で離れる実際の行動だ。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。

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