送金を重ねるほど広がる|お釣り検出とCIOHが作る追跡の累積構造
取引所からBTCを引き出し、ハードウォレットに移した。毎回新しい受取アドレスを使っている。それでも追跡は続いています。問題はアドレスの新旧ではなく、送金のたびに積み上がる「接続の履歴」にあります。
送金のたびに増えるもの
BTCを誰かに送るとき、ほぼ必ずお釣りが発生します。0.08BTCを送りたいが手元には0.1BTCしかなければ、差額の0.02BTCが別のアドレスに返ってきます。このお釣りアドレスは次の送金でまた使われ、そこからまた新しいお釣りが生まれます。
Chainalysisのお釣り検出は、この連鎖を自動的に追います。送金額のパターン、ウォレットが生成するアドレスの規則性、BIP32の導出構造、タイムスタンプの分布——これらを組み合わせることで、どのアウトプットが「お釣り」なのかを高い精度で推定します。
結果として、10回の送金は10個のお釣りアドレスを生み出し、それぞれが前後の取引と繋がります。毎回新しいアドレスを意識して使っていても、お釣りの連鎖があなたのウォレット群を1本の糸で繋いでいます。
CIOHが過去の取引に手を伸ばす
「共通入力所有権ヒューリスティクス(CIOH)」は、複数のUTXOを1回の送金にまとめると、それらすべてが同一人物のものと判定する手法です。日常的な送金でUTXOを合算することは珍しくありません。
ここで重要なのが、この判定が過去に遡るという点です。Chainalysisは新しい接続を発見した瞬間、それまでに蓄積したすべての取引データを再分析します。3年前の取引所出金アドレスと、今日のお釣りアドレスが同じ送金で使われた瞬間、3年分の履歴が自動的に1つの名前に収束します。
KYC(本人確認)を経て購入した記録は、永久に消えません。そのKYCアドレスが追跡グラフに1ノードとして残り続ける限り、連鎖的に繋がるすべてのアドレスが「あなたのもの」として記録され続けます。100以上の政府機関がChainalysisを利用しており、蓄積されたデータに時効はありません。
接続が増えるほど追跡精度が上がる構造
お釣り検出とCIOHが組み合わさると、追跡のグラフは送金を重ねるたびに広がります。
1回目の送金でお釣りアドレスが1つ追加され、2回目にそのお釣りを使うと新たなアドレスと繋がります。複数のUTXOをまとめた瞬間、それまで独立していたアドレス群が一斉に接続されます。これは単純な足し算ではなく、接続が増えるたびに潜在的なリンク数が増える構造です。送金を積み重ねるほど、追跡できるアドレス数は増え、特定精度は上がります。
つまり、長くBTCを保有するほど、送金を繰り返すほど、追跡への露出は蓄積されていきます。時間が経てば経つほど有利になるのは、追跡する側です。
取引所保管では管理できない理由
この追跡に対抗する技術は存在します。CoinJoinはCIOHの前提を崩します。Coin Controlという機能は使うUTXOを手動で選択し、お釣りの連鎖を意図的に管理できます。PayJoinを使って送金パターンを曖昧にする方法もあります。
しかし、これらはすべて秘密鍵を自分で管理していることが大前提です。
取引所にBTCを預けている場合、どのUTXOを使うか、どのようにバッチ送金を組むか——それを決めるのは取引所であり、あなたではありません。CoinJoinを選択する権限はなく、UTXO管理もできません。さらに、取引所が複数の顧客の出金を1つのトランザクションにまとめた場合、CIOHによって見知らぬ他の顧客と「同一人物」と誤判定されるリスクすら生じます。
連鎖の管理権限は誰が持つか
追跡の連鎖は送金のたびに積み上がります。その連鎖を管理できるのは、秘密鍵を自分の手で握っている人だけです。ハードウォレットで署名し、Coin ControlでUTXOを選び、CoinJoinで接続を断ち切る——これらの選択肢は、秘密鍵を持つ者にのみ開かれています。
送金を重ねた分だけ追跡グラフが広がっていく。その事実を知った上で、今夜時点でその管理権限がどこにあるかを確認してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
この記事が参考になったら、セルフカストディの具体的な始め方もチェックしてみてください。
LINE登録でセルフカストディの始め方を学ぶ 正しい手順を無料でお届けします