相続税だけが残る日|評価額固定と取引所凍結の罠

身近な人が亡くなった翌朝、あなたは何をするだろうか。葬儀の手配、役所への届け出、病院への連絡——やるべきことが次々と押し寄せる中で、故人が取引所に預けていたビットコインのことに気づく。そして、すぐに壁にぶつかる。「引き出せない。」

相続税には10ヶ月の期限がある

日本の相続税法では、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に申告と納付を完了しなければならない。期限を過ぎれば、延滞税や加算税が上乗せされる。10ヶ月という期間は一見長く感じるかもしれないが、財産の把握・評価・遺産分割協議・申告書の作成と、やるべきことは多い。

相続財産にビットコインが含まれる場合、評価額は「相続発生日の時価」で固定される。BTC価格が高騰しているタイミングで相続が発生すれば、その日の終値が基準となり、高い税額が確定する。

取引所の審査が始まり、BTCは凍る

問題はここからだ。取引所に預けてあるBTCを動かすには、まず口座の名義人が死亡したことを申し出て、相続手続きを開始しなければならない。

各取引所が求める書類は多い。除籍謄本、遺産分割協議書、相続人全員の印鑑証明書——これらを漏れなく揃えて提出する必要があり、書類に不備があれば差し戻しになる。審査が完了するまで、その口座のBTCは出金も売却もできない状態が続く。

審査期間は取引所によって異なるが、最短でも1ヶ月、長ければ3ヶ月以上かかるケースがある。

税金を払うためのBTCが、払えない状態にある

ここに、見落とされがちな構造的な問題がある。

相続税は原則として現金で納付しなければならない。ビットコインで直接払うことはできない。なお、不動産など一部の財産は「物納」という形で相続税の代わりに納付できるが、暗号資産は物納の対象外だ。

つまり相続したBTCで税金を払うには、BTCを売って円に換えるという手順が必要になる。しかしそのBTCは、まだ取引所の凍結下にある。

評価額は相続発生日のBTC価格で固定されている。税額はすでに確定している。それなのに、税金を払うための現金を用意するための手段——つまりBTCの売却——が、審査完了まで一切できない状態だ。

さらに不運が重なるケースもある。凍結中にBTC価格が大きく下落した場合、評価額は高騰時のまま固定されているため、実際に売却できる金額より多くの税金を払う羽目になりうる。価格リスクを取れない状態で、価格変動の結果だけを引き受けさせられる。

セルフカストディなら、翌日から動かせる

セルフカストディでビットコインを保有していれば、この問題の構造が根本から変わる。

鍵さえ引き継げれば、相続発生の翌日から資産を動かせる。取引所に書類を提出する必要はなく、審査を待つ必要もない。BTCを売るタイミングも相続人が自分で判断できる。

ただし、鍵の引き継ぎには事前の準備が必要だ。シードフレーズを安全な場所に保管し、家族がその存在と使い方を把握している状態を、生前に設計しておかなければならない。何の準備もなくシードフレーズだけが残されても、遺族にとって使えない紙切れになる。相続を前提にしたセルフカストディの設計は、早いほど良い。

最も重要な場面で権限を失う

取引所にBTCを預けることは、そのBTCへのアクセス権を取引所に委ねることを意味する。通常時はそれで問題がないように見えても、相続という「人生の最重要局面のひとつ」において、資産を動かす権限が相続人の手を離れる。

凍結の1〜3ヶ月は、単なる「不便」ではない。相続税を期限内に払えないリスクを生む期間でもある。価格変動の影響を一方的に引き受けさせられる期間でもある。

今あなたが取引所に預けているBTCは、相続が発生した瞬間に「動かせない資産」へと変わる。それを動かせる状態に戻すまでに、書類の山と審査の時間が待ち受けている。

セルフカストディへの移行と、家族への鍵の引き継ぎ方の設計を、今日から始めることをお勧めしたい。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。

この記事が参考になったら、セルフカストディの具体的な始め方もチェックしてみてください。

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