出金は止まり4.8億ドルが動いた|FTX申請後6時間の構造
2022年11月11日、あなたがFTXのアプリを開いて残高を確認していたとき、出金ボタンはグレーアウトしていた。数日前から凍結は始まっていた。そして破産申請のニュースが流れた。「これで法的保護が始まる」と思った人もいただろう。
しかし申請から6時間以内に、約4.8億ドル相当の暗号資産がFTXのウォレットから外部へ流れ出た。顧客が「出金できない」と焦りながらSNSを見ていた時間帯に、同じブロックチェーンの上で資金は動いていた。
「保護」が始まった瞬間に起きたこと
破産申請は法的な財産保全の手続きだ。本来は申請時点から資産が保護され、公正な配分に向けた手続きが開始される。
FTXの場合、その「保護」のはずの6時間に大規模な資金移動が発生した。内部関係者によるものか外部からの侵入によるものかは当初不明だったが、約4.8億ドルが複数ウォレットを経由して移動した事実は、オンチェーン上に記録されていた。
顧客は出金を待っていた。その間、資産は別の方向へ動いていた。どちらが先に動けたかが、全てを決定した。
申請より前に始まっていた話
流出が明らかになるにつれ、より深刻な背景が浮かび上がった。FTXの関連会社であるアラメダ・リサーチは、FTXが預かった顧客資産を運用・担保として流用していた。報道によれば、その規模は数十億ドルに達していたとされる。
顧客がFTXに預けていたビットコインは、「安全に保管された自分の資産」ではなかった。別の事業の資金として動いていたのだ。破産申請日の帳簿が問題だったのではなく、その何ヶ月も前から、顧客の資産と会社の資金は混在していた。
申請時点で回収可能な資産が大幅に目減りしていたのは、こうした構造が背景にある。
破産手続きで顧客が並ぶ位置
破産手続きには回収の優先順位がある。まず弁護士・管財人の費用が支払われる。FTXの破産管財費用は、最終的に数億ドル規模に達した。次に担保付き優先債権者が回収する。
一般顧客への返済が始まったのは破産申請から約2年後、2024年のことだ。
さらに問題なのが精算の方法だ。FTXからの返済は、破産申請時点の暗号資産価格を基準に計算された。2022年11月のビットコインは約1万6千ドル前後だった。その後、価格は数倍に上昇したが、FTX顧客が受け取る金額は申請日の価格のまま精算される。価格上昇の恩恵はどこにもない。
2年間待ち続け、機会損失だけが積み上がり、受け取るのは申請日の金額だ。
セルフカストディに「凍結」がない理由
では、同じ時期にビットコインをセルフカストディで保有していた人がいたとすれば、何が違ったのか。
取引所での出金が凍結されたのは、秘密鍵の管理を取引所に委ねていたからだ。秘密鍵の保有者が取引所である以上、「いつ・誰が・どの条件で動かせるか」は取引所側が決定する。利用規約にその権限は明記されており、FTXの場合は実際にその通りに行使された。
セルフカストディでは、秘密鍵を自分が管理する。出金の許可を誰かに求める必要はない。取引所の破産申請の翌朝でも、深夜でも、2年後でも、自分の意思でビットコインを動かせる構造が維持される。凍結を決定できる主体が存在しないからだ。
「取引所に預ける」とは、秘密鍵という管理権を第三者に委ねることを意味する。残高が画面に表示されていても、それを実際のビットコインに変換できるかどうかは、取引所の状態に依存している。
6時間前に判断は終わっていた
FTX顧客が凍結されていた6時間、セルフカストディの保有者にとってその6時間は何も変わらない日常だった。ニュースを見ながら、平常通りに自分のウォレットを確認できた。
「もしもの時のため」ではない。セルフカストディは、信頼に依存しない構造を平時から持つという設計の話だ。ハードウォレットにビットコインを移す判断は、相手を信頼しないからではなく、信頼の必要がない状態を作るためだ。
FTXの申請が報じられた朝、どちらの状態にあったかは、その朝ではなく、それより前の判断で決まっていた。
今、あなたのビットコインはどちらにあるだろうか。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
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