Torで送金しても追跡される|取引所KYCが残す起点の記録
Torを経由しているから追跡されない——そう信じてビットコインを動かしているなら、一度立ち止まって考えてほしい。その取引所に、あなたはいつ登録したのか。
登録した瞬間に確定した「起点」
取引所に口座を開くとき、本人確認書類・顔写真・住所を提出した。KYCの手続きだ。その登録は必ずインターネット経由で行われた。つまり、あなたのIPアドレスと本名が結びついた瞬間が、取引所のサーバーに記録されている。
その記録は消えない。以降どれだけTorで接続しようとも、「この口座を最初に開いたIPは誰のものか」という事実は変わらない。Torが隠せるのは「今この接続経路」だけであって、過去に登録された身元情報ではない。ここに、多くの人が気づいていない根本的なずれがある。
犯収法が作る「照合の窓口」
日本の犯罪収益移転防止法は、取引所に対して当局の照会に応じる義務を課している。疑わしい取引と判断されれば、顧客のKYCデータと接続ログをセットで開示しなければならない。
ここで重要なのは、この照合がブロックチェーン上の追跡とは独立して行われることだ。捜査機関はTorの出口ノードを解析する必要すらない。取引所に照会状を送れば、登録時のIPと本名がセットで手に入る。Torによる経路の難読化は、取引所内部のデータベースに対しては完全に無効だ。
三点が取引所内部で既に繋がっている
取引所を経由したビットコインには、三つの情報が内部で連鎖している。
一つ目は、KYCによって確定した本人情報——氏名・住所・本人確認書類の内容。二つ目は、登録・ログイン時に蓄積されたIPアドレスのログ。三つ目は、そのアカウントから動いたビットコインアドレスの送受金履歴だ。
この三点は、Torを使う前から既に取引所内部で結びついている。後からCoinJoinでオンチェーンの痕跡を分断しようとしても、取引所のサーバーには「そのアドレスに送金した元アカウント」の記録が残り続ける。チェーン上の難読化だけでは、オフチェーンの橋渡しを断ち切れない。
「後から出金して移せばいい」が通じない理由
取引所からBTCを出金してセルフカストディに移した後、さらにCoinJoinを使えばプライバシーを回復できると考える人がいる。オンチェーン分析に対しては一定の効果があるかもしれない。だが取引所のKYCログとIPの記録は、ブロックチェーンとは別の場所に存在する。
チェーン上の動きをどれだけ難読化しても、取引所のオフチェーンログには「その資金の出元アカウント」が記録されたままだ。二つのバケツのうち一方だけを塞いでも、もう一方から水は漏れる。プライバシーはオンチェーンとオフチェーンの両面で設計しなければ意味をなさない。
セルフカストディが最初から持つもの
自分でビットコインを管理するなら、起点を汚染せずに始められる。P2P取引でビットコインを入手し、Tor経由で自前のフルノードに接続する。最初からKYCの窓口を通らなければ、IPとアドレスは紐づかない。
この「起点の清潔さ」は、取引所を一度でも経由した時点で失われる。「後で移せばいい」という発想では遅い。汚染された起点は後続のウォレットに引き継がれ、移動先を変えても取引所のサーバーにある出発点の記録は書き換えられない。
プライバシーを本気で守るなら、「どこからビットコインを受け取るか」という起点の設計から始める必要がある。取引所を通じてビットコインを保有する限り、Torはネットワーク経路を隠すだけで、あなたの素性は隠さない。
セルフカストディへの移行を考えているなら、まず受け取りの起点を見直すことから始めてほしい。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
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