1日2回払いが始まった1923年|取引所BTCに同じ構造がある
あなたのビットコインは、危機が起きた瞬間に動かせる状態ですか。
ハードウォレットを持っている人は少数派です。多くのBTC保有者が、購入した取引所にそのまま預け続けています。「いつでも引き出せる」と思いながら。ただ、その「いつでも」が来なくなる日があります。
賃金がパンに変わった1923年
1923年のドイツ、ワイマール共和国。多くの工場が週1回だった給与払いを、1日2回に変更した記録が残っています。午前と午後、それぞれの終業直後に現金を配り始めました。理由は単純です。朝受け取ったマルクが、昼までに購買力の大半を失っていたからです。
その年、1ドルが4兆2000億マルクになりました。数字だけ聞けば非現実的に見えます。ですが現地の人々にとっては、毎日の生活の中で徐々に起きた変化でした。最初は「少し物価が上がった」だけでした。気づいた時には、銀行口座の残高が何の役にも立たなくなっていました。
給与の代わりにパンや薪で支払う工場が現れました。物々交換が「例外」ではなく「普通」になる社会。これが通貨崩壊の終着点です。
「まだ大丈夫」の間に溶けていく
注目すべきは、ドイツ人が無知だったわけではない点です。当時の新聞はインフレを報じていました。銀行員も、隣人も、誰もが「お金の価値が下がっている」と知っていました。それでも多くの人が、銀行口座にマルクを預け続けました。
「まだ銀行は開いている」「まだ法律は守られている」「まだ何とかなる」。こうした正常性への期待が、行動を先送りにさせました。崩壊は一夜では来ませんでした。数ヶ月かけて、じわじわと進行しました。そしていざ「全財産を引き出そう」と思った時には、引き出した現金もその日のうちに価値を失いました。
BTCには上限がある。だが鍵がなければ意味がない
ビットコインには、ワイマールのマルクと根本的に異なる特性があります。発行上限が2100万枚でプロトコルに刻まれており、政府や中央銀行が増刷することは設計上できません。インフレによって価値が希薄化しません。
ただし、取引所に預けたままのBTCには別の問題があります。秘密鍵が自分の手元にありません。
取引所のアカウントに表示される残高は、データベース上の記録です。出金を要求すれば通常は処理されますが、それは「取引所が正常に機能している間」の話です。取引所が出金を停止する局面はいくつかあります。サイバー攻撃による一時停止、流動性不足、規制当局からの命令、そして破綻申請。いずれの場合も、あなたには出金を強制する手段がありません。
1923年のドイツ人が「銀行窓口が開いていれば引き出せる」状況だったように、取引所保有者は「取引所が出金を許可してくれれば引き出せる」状態にあります。主導権が自分にない点で、構造は同じです。
危機はゆっくり来て、突然終わる
歴史を振り返ると、金融危機の多くは「徐々に」進行し、「突然」臨界点を迎えます。
FTXの崩壊は2022年11月7日から始まりましたが、出金は翌8日には実質的に停止していました。最終的な破産申請は11日です。わずか4日間でした。預けていた資産を取り戻す手続きはその後数年以上かかっています。
ワイマール共和国のハイパーインフレで最も教訓的なのは、「崩壊した後に行動しても遅い」という点です。銀行口座のマルクが紙くずになってから、別の資産を手に入れようとしても手遅れでした。現物を持っていた人、外貨を持っていた人、土地を持っていた人だけが、財産を守ることができました。
BTCを取引所に預けたまま「いざとなれば引き出せばいい」という発想は、1923年のドイツ人が「いざとなれば銀行から引き出せばいい」と考えていたのと同じ構造です。
セルフカストディは保険ではなく前提です
ハードウォレットによるセルフカストディは、特別なリスク対策ではありません。BTCを「本当に保有している」状態への移行です。
秘密鍵を自分で管理している人は、取引所が停止しても、規制が変わっても、破綻申請が出ても、自分のBTCを動かすことができます。誰の許可も必要ありません。
ワイマールで物々交換が始まった時、現物の食料や薪を持っていた人は生活を維持できました。銀行口座のマルクしか持っていなかった人は、何兆マルクあっても薪一束も手に入れられませんでした。BTCの世界では、秘密鍵が「現物」です。取引所の残高表示は、自分では動かせない数字に過ぎません。
1日2回払いになった工場の話を、他人事として読みましたか。今日、ハードウォレットを注文するかどうか検討してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
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