決済受け取りで残高が晒される構造|PayJoin v2の協調設計

ビットコインで商品代金や業務報酬を受け取ったことがある人に、確認しておきたいことがあります。その支払いをした相手が、あなたのウォレットを今も継続的に監視できる状態にあると知っていましたか。

あなたが取引先にアドレスを伝えた瞬間から、そのアドレスにまつわる全ての取引が相手に公開されます。ビットコインのブロックチェーンは誰でも検索できる公開台帳です。アドレスを知っている人間は誰でも、そこへの入金履歴、出金先、残高の推移をリアルタイムで参照できます。

銀行の口座番号を知っていても残高は見えません。ビットコインのアドレスは違います。知っているだけで、残高も過去の取引も、将来の動きも観察できる状態が永続します。

受け取るたびに積み上がる記録

フリーランサーが業務委託報酬をBTCで受け取ったとします。クライアントはその後、受取アドレスを起点に「いつ、どこから、いくら入金されたか」を継続的に把握できる状態になります。他のクライアントからの報酬も、生活費への送金も、UTXOのパターンによっては繋がる可能性があります。

これはハッキングでも脆弱性でもなく、ビットコインの設計仕様です。

ChainalysisやEllipticといったチェーン分析企業は、この公開データを処理して金融プロファイルを構築するサービスを販売しています。数年分の取引履歴は、銀行の明細書より詳細な情報になり得ます。個人の取引履歴だけでなく、取引相手のクラスタリングや送金パターンの分析まで、ツールは高度化し続けています。

PayJoin v2が変える送受信の力学

2024年に実装が進んだPayJoin v2は、この構造を根本から変える技術です。

通常の取引では、送金者がインプット(送り出す資金)をすべて用意して受取アドレスに送ります。チェーン分析ツールは「複数のインプットは同一人物のもの」という前提でアドレスをクラスタリングします。この前提は高い精度で機能しています。

PayJoin v2では、送り手と受け取り手が協力して一つの取引を構成します。受け取り手も自分のインプットをその取引に追加するため、「どのインプットが誰のものか」が外部から判断できなくなります。誰が送り手で、誰が受け取り手かさえも、チェーン分析には見えません。

決定的な特徴は、この取引がブロックチェーン上で「普通の送金」と見分けがつかないことです。CoinJoinには特徴的なパターンがあり、プライバシー目的の取引として識別されることがあります。PayJoin v2にはその目印がありません。追跡の前提となる仮定を、音もなく崩します。

v2で解決したリアルタイム問題

初期のPayJoin(v1)には実用上の壁がありました。送り手と受け取り手が同時にオンラインで接続している必要があったのです。商取引の多くは非同期で進みます。注文後に別タイミングで支払いが来る、という場面ではv1は使えませんでした。

v2では中継サーバーを介した非同期通信に変わりました。双方がそれぞれのタイミングで操作を完了できます。電話のような同時接続から、メールのような非同期交換に移行したイメージです。一般の商取引に組み込みやすくなり、実用性が大幅に向上しました。

使える条件:秘密鍵を自分が持つこと

PayJoin v2に参加するには、受け取り手が自分のウォレットを直接操作できる環境が必要です。送られてきた部分的な取引を確認し、自分のインプットを追加し、署名して返すという処理を、自分のウォレットが実行します。

秘密鍵を自分で管理していなければ、この操作は不可能です。

取引所に預けているBTCでは、送金も受け取りも取引所が代行します。PayJoin v2の協調署名に参加する権限も、意思決定も、ユーザーには最初から存在しません。取引所が全ての取引を処理し、そのデータはブロックチェーン上に永続的に記録され続けます。プライバシー技術の存在を知っていても、実行できる手段が最初からありません。

Sparrow WalletやBTCPay Serverなど、PayJoin v2に対応したツールは既に存在しています。使える条件は一つだけです。秘密鍵をあなた自身が管理していること。

今日から選択できること

プライバシーは、侵害された後に取り戻すことはできません。すでに公開台帳に記録された取引を消す手段はありません。できるのは、これからの記録をどう扱うかを選ぶことだけです。

受け取りのたびに財布を覗かれる状態が続くか、協調設計で記録を曖昧にするかは、秘密鍵を持っているかどうかで決まります。取引所に預けたBTCには、その選択肢が最初から存在しません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。

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