申告日にBTCを売れなかった遺族|相続税と取引所凍結の罠
親の死後、ビットコインを相続した。そう気づいたのは、葬儀が終わり、遺品整理に取り掛かった頃のことだ。取引所のアプリが入ったスマートフォンに、数百万円分のBTCが残されていた。
相続税の申告期限は、被相続人が亡くなった翌日から10ヶ月以内。現金で納税するためには、そのBTCを売却しなければならない。問題は、この「売却」が想定より遥かに難しかったことだ。
名義人が死ねば、取引所の口座は止まる
取引所に連絡を入れると、「名義人が死亡された場合、口座は一時凍結となります」と案内された。相続手続きを進めるには、戸籍謄本、相続関係説明図、遺産分割協議書、印鑑証明書——複数の書類を揃えて提出しなければならない。
書類を集めるだけで数週間かかった。役所への申請、士業への依頼、家族間での合意形成。それぞれに時間が消えていく。取引所への書類提出後も、審査には数週間から数ヶ月を要する場合がある。
実際に、引き出し完了まで3ヶ月以上かかった事例がある。審査途中で書類の再提出を求められることもある。「手続き中」の状態は、思ったよりずっと長く続く。
10ヶ月は長いようで、短い
10ヶ月という期限は、一見すると余裕があるように見える。しかし相続発生直後は、葬儀の手配、資産の洗い出し、相続人間の協議に追われる。BTCのような資産の存在に気づくのが遅れることも多い。
気づいたときには、申告期限まで残り数ヶ月——という状況は珍しくない。そこから取引所の手続きを開始しても、申告日に間に合わない可能性は十分にある。
申告日当日、遺族の手元にBTCはなかった。残高は画面の上にあるだけで、実際には誰も動かせない状態だった。相続税は現金で支払う必要があり、BTCを売却して円に換えなければ納税ができない。その売却が、期限に間に合わなかった。
期限を過ぎると、余計な費用が生まれる
相続税の申告期限を過ぎると、無申告加算税や延滞税が発生する可能性がある。本来の税額に対して一定率が上乗せされ、放置するほど負担は膨らむ。「BTCはある。ただ、今は触れない」という状態が、金銭的なダメージとして遺族に返ってくる。
本来であれば、BTCは十分に相続税を賄える資産だった。問題は資産の量ではなく、申告日に動かせるかどうかだった。資産が存在していても、アクセスできなければ機能しない——この事実が、取引所保管の本質的な弱点を示している。
セルフカストディなら、申告日でも動ける
一方、セルフカストディでBTCを管理していた場合、状況は根本的に異なる。
ハードウォレットで管理されたBTCには、取引所の審査も口座凍結もない。シードフレーズを家族に伝えておけば、相続発生直後から書類提出を待つことなくアクセスできる。申告日に売却が必要であれば、その日に動かせる。
「鍵を持っている者だけが、BTCを動かせる」——これは相続の場面でも変わらない事実だ。取引所に預けているBTCは「アカウント上にある」だけで、「自分で管理できる状態にある」わけではない。相続という局面では、その差が数ヶ月分のタイムラグとして、そして場合によっては金銭的なペナルティとして表れる。
今のうちに確認しておくこと
ビットコインを相続財産として残すつもりなら、今すぐ確認しておきたいことがある。
現在保有しているBTCは取引所にあるか、ハードウォレットにあるか。家族はシードフレーズの存在を知っているか。保管場所と使い方を、信頼できる人間に伝えてあるか。
ハードウォレットの初期設定は難しくない。設定を終えて取引所から移送すれば、申告日に動かせる環境は整う。その一手が、10ヶ月後の家族を守る。
相続はいつ発生するかわからない。準備できる今のうちに動かせる環境を作っておくことが、遺族にとっての最大の備えになる。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
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