使えなくなったBTC|トルコ2021年政府令と取引所保管の盲点

あなたのビットコインで、今日、何かを支払おうとしたら、それは本当に使えるでしょうか。

2021年4月30日、トルコのビットコイン保有者の多くが、この問いに対して「使えない」という現実を突きつけられました。前日まで決済の選択肢として存在していた暗号資産が、政府の一枚の命令書によって支払いへの利用を禁じられたのです。通貨の崩壊から逃げるために取得したビットコインが、国家の規制によって使い道を制限される。その経緯を振り返ると、取引所保管が持つリスクの本質が見えてきます。

リラが1年で44%溶けた背景

2021年のトルコリラは、年間で約44%の価値を失いました。インフレを制御するには金利を引き上げるべき局面でしたが、エルドアン大統領は引き上げを主張した中央銀行総裁を解任し、反対に利下げを続けました。通貨政策が政治的判断に服従し、その結果として通貨の価値が急速に溶けていったのです。

自国通貨が信頼を失う中、多くのトルコ市民がビットコインに注目しました。発行上限が数学的に固定されており、どの政府も増刷できない資産として。リラの代替として、あるいは資産価値の保存先として、需要は急増していきました。

政府が打った一手:決済禁止

しかし政府は、その逃げ道を封じる行動に出ました。2021年4月30日に施行された政府令により、ビットコインを含む暗号資産を商品やサービスの支払いに使用することが全面禁止されたのです。

取引所に口座を開設し、そこでビットコインを保有していた人々にとって、この影響は明確でした。取引所は設立された国の法令に従って運営されます。決済への利用が法律で禁じられれば、取引所もその規制に服従せざるをえません。支払いの手段としてのビットコインという選択肢が、規制一枚によって一夜のうちに消えたのです。

所有権ではなく「アクセス権」の問題

ここで一つ、正確に整理しておく必要があります。

日本をはじめ多くの国では、暗号資産交換業者には顧客資産の分別管理義務が課されています。法律の上では、取引所の口座に記録されているビットコインはあなたのものです。これは法的事実です。

しかしトルコの事例が示したのは、「誰のものか」という所有権の問題ではありませんでした。「誰が、いつ、どんな状況でも動かせるか」というアクセス権の問題です。

ビットコインを取引所に預けているとき、そのビットコインを実際に動かすための秘密鍵を管理しているのは取引所です。規制が変われば取引所はそれに従い、行政処分があれば出金処理が停止されることもあります。あなたがスマートフォンで送金操作をしても、実際に秘密鍵を使って署名しているのは取引所であり、取引所が規制を受けた状況では、あなたのビットコインも動けなくなります。

秘密鍵を自分で持つことの意味

ハードウェアウォレットなどを使い、秘密鍵を自分で管理している場合は、状況がまったく異なります。取引所がどのような規制を受けようとも、自分のウォレットに格納された秘密鍵には、その影響が届きません。ビットコインのプロトコル自体は、いかなる政府命令によっても停止しません。動かせるかどうかを決めるのは、秘密鍵が誰の手にあるかという一点だけです。

トルコの政府令は、取引所という窓口を通じてビットコインに届きました。その窓口を経由せず、秘密鍵を自分で保有していた人には、規制が直接届くことはありませんでした。

規制は予告なく訪れる

2021年のトルコの出来事を「特殊な国の特殊な話」と片付けることは容易です。しかし、資本規制、行政処分、金融制度の変化は、トルコだけで起きているわけではありません。取引所保管のビットコインへのアクセスが制限される引き金は、どの国にも潜んでいます。

日本においても、規制の変化や取引所を取り巻く環境が変わったとき、預けたビットコインをすぐに動かせる保証はありません。今日動かせるから、明日も動かせるとは限らないのです。

今、あなたのビットコインは誰が管理していますか。秘密鍵はあなたの手にありますか。この問いに答えられない状態が続いているなら、セルフカストディへの移行を検討するタイミングかもしれません。ハードウェアウォレットの設定と、シードフレーズの安全な保管。この二つを整えることが、誰かの判断に依存しないビットコイン保有の出発点になります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。

この記事が参考になったら、セルフカストディの具体的な始め方もチェックしてみてください。

LINE登録でセルフカストディの始め方を学ぶ 正しい手順を無料でお届けします
← 記事一覧に戻る
LINE登録 ▶ セルフカストディの始め方を無料で学ぶ