2度繰り返された通貨消失の構造|ベネズエラとBTCが示す答え
1度目を経験したなら、2度目は防げたはずだ。そう思うかもしれない。
2008年、ベネズエラ政府は通貨から3桁を削り、ボリバル・フエルテに切り替えた。1,000旧ボリバルが1ボリバル・フエルテになった。インフレによって膨れ上がった桁数を「整理」するための措置だった。政府はこれを「安定化」と説明した。
その10年後、同じことが起きた。2018年8月、今度は5桁が削られた。ボリバル・フエルテ10万枚が、新通貨ボリバル・ソベラノ1枚になった。1,000万ボリバルあった残高が、翌朝には100ボリバルに変わっていた。
数字を書き換えれば問題は解決するのか。2度の答えは、ともに「ノー」だった。
同じ「解決策」が2度失敗した構造
2018年の年間インフレ率は推定約100万%に達した。新通貨のボリバル・ソベラノは、発行から数週間後にはすでに価値を失い始めていた。
なぜか。通貨改革は「数字を削る」だけで、インフレの原因を何も変えなかったからだ。
ベネズエラが抱えていた問題は通貨の桁数ではなく、政府が財政赤字を補填するために中央銀行経由で通貨を無制限に増刷し続けるという「構造」だった。その構造に手を加えない限り、数字をいくら書き換えても同じ結果になる。
2008年の切り替えは、いわば「予告」だった。だが、その教訓が生かされることはなかった。
知っていても逃げられなかった理由
ここに重要な問いがある。2008年を経験したはずの人々が、なぜ2018年にも損失を被ったのか。
答えは単純だ。選択肢がなかった。
給与はボリバルで支払われる。家賃も、食料の購入も、税金の支払いも、ボリバルを介して行われる。外貨保有は規制され、資本の国外移動には厳しい制限がかかった。「この通貨はいずれまた崩れる」と分かっていても、生活を維持するためには使い続けるしかない。
出口のない制度では、正しい認識があっても損失を避けられない。これが法定通貨の持つトラップだ。政府が発行を独占する通貨は、たとえ問題があっても、その社会に生きる人々が使わざるを得ない仕組みになっている。
ビットコインのセルフカストディが持つ意味
2018年の混乱の中でも、無傷だった人たちがいた。ビットコインをセルフカストディで保管していた人々だ。
政府の通貨改革命令は、ビットコインには届かない。ボリバルの額面は法令で書き換えられるが、ビットコインの発行上限である2100万枚を変更する権限はどの国の政府にも存在しない。世界中の数万台のノードがプロトコルを常時検証しており、誰かが勝手に書き換えることはできないからだ。
1BTCは、2018年8月にも1BTCのままだった。
ただし、これは「秘密鍵を自分で保管していた人」に限られる。
取引所にビットコインを預けていた場合、状況は大きく異なる。政府が取引所に対して出金停止を命じれば、残高表示は変わらなくても実際にはアクセスできなくなる可能性がある。これは所有権の問題ではなく、「引き出せる状態を誰がコントロールしているか」というアクセス管理の問題だ。秘密鍵を自分で持っていなければ、ビットコインが存在していても動かせない場面が生じうる。
この問題は日本と無縁ではない
ベネズエラは特殊な事例だと感じるかもしれない。だが「財政赤字を通貨増刷で補填する構造」は、程度の差こそあれ他の国にも存在する。
日本では2013年以降、日銀が大規模な量的緩和を継続してきた。発行済み国債のかなりの部分を日銀が保有し続ける構造が続いている。円安が長期にわたって続いているのは、こうした構造と完全に切り離して考えることはできない。
「日本でベネズエラのようなことは起きない」という前提は、まだ反証されていないだけであり、証明もされていない。ベネズエラが示したのは、壊れた構造が自己修復されることはないという事実だ。構造が変わらない限り、同じことは繰り返す。
出口は「今」しかない
セルフカストディを始める手順は、思ったより単純だ。
ハードウォレットを用意し、シードフレーズを安全な場所に保管する。取引所からビットコインを自分のウォレットに引き出し、復元テストで正しく動作することを確認する。このステップを踏めば、あなたのビットコインはあなただけが動かせる状態になる。
ベネズエラで2008年を経験した人が2018年に再び損失を被ったのは、知識がなかったからではなく、出口がなかったからだ。
日本では今、その出口がある。取引所からビットコインを自分のウォレットに引き出す選択肢が、法的にも技術的にも存在している。
数字は書き換えられる。だが、2100万枚という上限は書き換えられない。2度の崩壊を経たベネズエラが証明したその差を、あなたのBTC管理に生かしてほしい。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
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