採掘エネルギーが購入する改ざん耐性|PoWの恩恵が届く条件

ビットコインに向けられる批判の中で、最もよく目にするものの一つが「電力の無駄遣い」です。「1件の送金で一般家庭の数ヶ月分の電力を消費する」という数字を、ニュースやSNSで見かけた方も多いでしょう。

もしこの数字が正しければ、ビットコインは環境破壊的なシステムということになります。しかし、この計算式には根本的な誤りが隠れています。

その計算、分母が間違っています

問題の計算式はシンプルです。ビットコインネットワーク全体の年間消費電力を、年間の総トランザクション数で割っただけです。

ここで見落とされているのが「ブロック」という単位です。ビットコインの送金は1件ずつ個別に処理されるわけではありません。約10分ごとに採掘される1つのブロックに、平均で約2,000件の取引がまとめて含まれます。

そしてこのブロックを採掘するために必要なエネルギーは、取引が1件でも2,000件でも変わりません。採掘の電力はブロック単位でかかるものであり、個々の取引に対してかかるものではないのです。

2,000件目の追加コストはゼロ

この点を経済学の言葉で表現すると、こうなります。ブロック内の取引が1件から2件に増えても、採掘に必要なエネルギーは1ワットも増えません。1,999件から2,000件に増えても、同じです。

つまり、1件の取引を追加したときの「追加エネルギー」、すなわち限界コストは実質ゼロです。

2,000件の取引が1つのブロックのエネルギーを分担しているという意味で、これは完全な「割り勘」の構造です。ところが「1件あたりの電力消費」という計算は、2,000人分のレストランの請求書を1人が支払ったかのように見せる数字のマジックに過ぎません。

批判者がこの前提のすり替えを意図的に行っているかどうかはわかりません。しかし結果として、まったく異なる印象を生み出しています。

エネルギーが本当に購入しているもの

では、マイニングに費やされる電力は何に使われているのでしょうか。「送金処理のコスト」と考えるのは、根本的な誤解です。

そのエネルギーが購入しているのは「改ざんの不可能性」です。ビットコインのブロックを書き換えるには、そのブロックを採掘するために世界中のマイナーが費やしたエネルギーと同量以上の計算資源が必要になります。これがProof of Work(PoW)の本質です。

2009年の誕生から17年間、ビットコインのブロックチェーンは一度も改ざんされていません。この17年分の不可逆性こそが、採掘エネルギーの本当の「購入物」です。

一方、エネルギー消費を削減したProof of Stake(PoS)型のアルトコインは、バリデータの談合や規制当局の圧力によって特定の取引を検閲できる構造を持っています。電力を削減した代わりに、人間が介入できる余地を設計に組み込んでしまったのです。「環境に優しい」という言葉の裏に、資産への管理権を失うリスクが潜んでいます。

PoWの信頼は、鍵を持つ者にしか届かない

17年間のPoWが積み上げた改ざん耐性。しかし、この保証が実際に届くのは誰でしょうか。

取引所にビットコインを預けている場合、あなたの残高は取引所のデータベース上の数字です。ブロックチェーン上に記録されているのは取引所のウォレットアドレスであり、あなたの名前ではありません。PoWが守っているのは、そのアドレスの秘密鍵を持つ者の資産です。

あなたが秘密鍵を持っていない限り、17年間のエネルギーが積み上げた改ざん耐性はあなたには届きません。

取引所が正常に動いている間は問題を感じないかもしれません。しかし、システム障害が起きたとき、規制当局の命令で出金が止まったとき、経営が行き詰まったとき、あなたはPoWが守った資産にアクセスする手段を持ちません。取引所の秘密鍵を持っているのは、取引所自身だからです。

本当に問うべき質問

「ビットコインは電力を使いすぎる」という批判を聞いたとき、本当に問うべきは「1件の送金にどれだけの電力がかかるか」ではありません。

問うべきは、「そのエネルギーが17年間守り続けてきた改ざん耐性の恩恵を、あなたは受け取る立場にあるか」という点です。

秘密鍵を自分で管理しているなら、その答えはYesです。取引所に預けたままなら、答えはNoです。PoWが積み上げた信頼は、鍵を持つ人にのみ届きます。まだ自分で秘密鍵を管理していないなら、まずハードウォレットの導入から始めることをお勧めします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。

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