旅行者は無制限、市民は60ユーロ|同じATMが示すBTC保管の本質

2015年6月29日の早朝、アテネ市内のATMに長い行列ができていた。前夜、ギリシャ政府が突然の銀行閉鎖を発表した。ニュースを見た市民が現金を求めて街に出たが、もう遅かった。

その行列に、外国からの旅行者も混ざっていた。彼らも同じATMを使う。だが、まったく違う結果が出た。

同じATMで、二種類の結末

ギリシャの銀行口座を持つ市民は、1日60ユーロしか引き出せなかった。口座に何十万ユーロあっても、毎日60ユーロ。それが3週間続いた。医療費も、家賃も、食費も、60ユーロという上限の中でやりくりするしかなかった。

一方、ヨーロッパ各国から来た旅行者たちは、自国の銀行カードで普通に引き出しができた。彼らの資産を管理する銀行は、ギリシャ政府の管轄外にあった。

なぜ同じ機械で、ここまで違う結果が出るのか。

理由は単純だ。ギリシャ政府が管轄できるのは、ギリシャ国内の銀行だけだ。外国の銀行には命令が届かない。制限の主語は「誰のお金か」ではなく、「どこの銀行に預けているか」だった。

EU加盟国であっても、民主主義国家であっても、預け先の銀行が政府の管轄下にある限り、その政府の判断に従わされる。法律も条約も、この構造を変えなかった。

取引所BTCに同じ構造がある

あなたのBTC、今どこにありますか。

取引所のアプリを開けば、残高欄に数字が表示される。しかし、BTCを実際に動かす秘密鍵は取引所が管理している。あなたが「出金」ボタンを押したとき、ブロックチェーンに署名するのは取引所のシステムだ。出金を許可するかどうかを決めるのも、取引所だ。

取引所が「出金を停止します」と決めれば、あなたはその判断に従うしかない。

2022年6月、仮想通貨レンディング大手のCelsiusが出金を全面停止した。数日後には破産申請。同年11月、FTXも出金処理を停止した。どちらも直前まで残高表示は正常だった。数字はあった。ただ、動かせなかった。

日本国内の取引所も例外ではない。金融庁の登録を受けた取引所であっても、経営危機や業務改善命令が下れば出金が止まる。2018年のコインチェック事件では、不正流出後の出金停止から完全な通常営業に戻るまで数ヶ月かかった。法的な登録の有無と、あなたが実際に動けるかどうかは、別の話だ。

秘密鍵を持てば、管轄が変わる

ハードウォレットで秘密鍵を自分で保管すれば、話が変わる。

ビットコインネットワークは、特定の国や企業の指示に従って動いていない。秘密鍵を持つ者が正しく署名すれば、誰の許可もなく送金が処理される。取引所が出金を止めても、政府が資本規制を発動しても、秘密鍵を自分で管理しているBTCには届かない。

2015年のアテネで外国人の銀行カードがギリシャ政府の管轄外にあったように、ハードウォレットで管理するBTCは取引所の判断の外にある。

初期設定に要する時間は1〜2時間だ。シードフレーズを安全に保管する工夫も必要になる。だがそれだけで、「預け先の都合に左右される保管」から「自分だけが動かせる保管」へと変わる。

封鎖の前夜には動ける。封鎖の朝には、動ける人と動けない人に分かれる。あなたはどちらにいたいですか。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。

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