保管者が先に逝く|2-of-3相続設計の盲点とタイムロック

シードフレーズを3人に分けて安心した、その後を考えたことがありますか。

2-of-3のシャミア秘密分散(SSS)は、3枚のうち2枚が揃えば復元できる設計です。信頼できる家族や友人3人に1枚ずつ渡しておけば、万が一のときに備えられる。そう理解している人は多いはずです。

しかし設計者であるあなたよりも先に、保管者の1人が亡くなったとき、その設計は静かに劣化し始めます。気づかないうちに、安全マージンが1枚分削られているのです。

2-of-3が2-of-2になる瞬間

シャミア秘密分散で3人に分散した場合、仕組みの上では1人欠けても残り2人で復元できます。1枚が使えなくなっても閾値を満たせる、それが分散の意義だと理解している人は多いはずです。

ただし保管者の1人が先に逝去した場合、残るシードは事実上2枚になります。2-of-2が成立する間は問題ありません。しかし次にもう1人が亡くなるか、シードを紛失すれば、その時点でビットコインは永久に誰も触れない状態になります。

この劣化は誰かが通知してくれるわけではありません。あなたが生きている間に、保管者の誰かが先に亡くなり、気づかないまま設計の安全マージンが消えていく。3枚あったはずのシードが実質2枚になり、そのことを誰も把握していない状態が続く。これが最も静かで、最も現実的なリスクです。

タイムロックが変える設計原理

この問題を根本から組み替えるのが、タイムロックとSSSを組み合わせた2層設計です。

基本的な仕組みはこうです。ビットコインをタイムロック付きのスクリプトに送金し、年に1回あなたが「生存確認」のトランザクションを送信してタイムロックをリセットします。通常の生活を送っているうちは、ビットコインはあなたの管理下に置かれたままです。

もしあなたが動けなくなり、確認を送れない状態が指定期間(たとえば365日)続いたとき、スクリプトが自動的に実行されます。事前に設定した遺族のアドレスへ、ビットコインが送金されます。人間の判断を介在させず、コードが実行します。

この設計では、SSSの保管者の生死にかかわらず、タイムロックの機能が独立して動き続けます。3人いた保管者が1人亡くなっていても、年次確認の仕組みは壊れていません。SSSが担うのは「あなたが死ぬ前に誰かに復元させる」役割、タイムロックが担うのは「あなたが動けなくなったら自動で遺族へ送る」役割です。この2層が揃って初めて、保管者の先死という盲点をカバーできます。

取引所にはそもそも選択肢がない

取引所にビットコインを預けた場合の相続を考えてみます。

死亡届の提出から始まり、戸籍謄本、法定相続人証明、印鑑証明、場合によっては弁護士の介入が必要です。取引所ごとに書類要件は異なりますが、相続完了まで数ヶ月かかることは珍しくありません。手続きが進む間、口座は凍結されたままです。

その数ヶ月間、ビットコインの価格は動き続けます。相続税の評価は死亡日時点の価格で固定されますが、実際に受け取れるのはそれより後です。価格が下がれば、評価額より低い価値のビットコインに対して税金を払うことになります。

そしてそもそも、取引所に預けたビットコインに対してタイムロックを設定することはできません。年次確認を組み込むことも、遺族アドレスへの自動送金を仕掛けておくことも、すべて秘密鍵を自分で持っている人間だけに許された操作です。取引所の顧客には、設計の入口すら存在しません。

今この瞬間に設計を動かす理由

タイムロック+SSSの2層設計は、「相続のための準備」というより「動けなくなったときの自動化」と理解するほうが正確です。

保管者が誰より先に亡くなるかは予測できません。だから保管者の生死に依存しない仕組みを組み込む。あなたが生きている間はシステムが回り続け、動けなくなったとき初めて遺族への送金が発動する。設計者であるあなた自身が動けるうちにしか、この仕組みは構築できません。

この設計を実装するには、セルフカストディが前提です。秘密鍵を持ち、スクリプトを理解し、自分のアドレスに対して自由にトランザクションを設定できる環境が必要です。取引所に預けたままでは、そのスタート地点にすら立てません。

まず鍵を手元に置く。それが相続設計の最初の一手です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。

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