担保ゼロで10億ドルを借りた日|アルトが内包するフラッシュローンの欠陥

あなたが保有しているアルトコインは、コードの「仕様通り」に消えるかもしれません。バグを突かれたわけでも、暗号が破られたわけでもありません。設計に内包された経路を使って、一人の攻撃者が数秒で実行しました。

2022年4月、DeFiプロトコル「Beanstalk」から約1億8200万ドルが奪われました。この事件が特別なのは、攻撃者が用意した初期資金がほぼゼロだった点です。使ったのは「フラッシュローン」と呼ばれる仕組みです。担保を一切必要とせず、同一トランザクション内で借りて、使って、返済します。攻撃者はこの技術で約10億ドルを調達し、プロトコルの議決権を一時的に掌握しました。

担保ゼロで10億ドルを動かす仕組み

フラッシュローンは、DeFiが「有用な機能」として設計したものです。通常の金融では担保がなければ融資を受けられません。だがブロックチェーンのトランザクションは、複数の操作を一つの処理として扱えます。その性質を利用したのがフラッシュローンです。借りて、使って、返す——この全てが一つのトランザクション内で完結するなら、理論上は担保が不要になります。

Beanstalkの攻撃者はこれを精密に使いました。フラッシュローンで調達した約10億ドルでガバナンストークンを大量購入し、議決権の過半数を瞬時に掌握しました。次に、自分の管理するアドレスに資金を移す提案を投票で可決し、1億8200万ドルを引き出しました。借りた10億ドルは同じトランザクション内で返済されます。フラッシュローンの貸し手にリスクはなく、攻撃者の手元には差額が残ります。一連の操作が、ほぼリアルタイムで完了しました。

監査済みのコードが防げなかった理由

この攻撃で重要な点は、コードにバグがなかったことです。スマートコントラクトは設計通りに動き、ガバナンス投票も仕様通りに機能しました。監査を通過したシステムが、設計の前提ごと崩れました。フラッシュローンによる一時的な資金調達という経路は、DeFiプロトコルが存在する限り常に開いています。これは特定のコードの欠陥ではなく、アーキテクチャとして内包された問題です。

さらに深刻なのは、スマートコントラクトが一度デプロイされると変更できない点です。攻撃を受けた後でも、問題が判明した後でも、即座に修正することは原則として不可能です。アップグレード機能を持つプロジェクトも存在しますが、その権限自体がガバナンストークンに依存することが多くなっています。つまり、同じフラッシュローンの手法で掌握されうるのです。監査は「現時点で既知の問題がない」ことを示すだけで、この構造的な経路を封じることはできません。

アルトコインはこの欠陥を設計に内包しています。機能が豊富であるほど攻撃面は広くなり、どれほど著名な監査会社がチェックを行っても、設計の前提が崩れれば意味をなしません。

ビットコインにフラッシュローン攻撃は成立しない

ビットコインにはスマートコントラクトがありません。Bitcoin Scriptはチューリング完全ではなく、フラッシュローンや複雑なガバナンス構造を実行できません。これはアルトコイン支持者から批判されることもありますが、実態は意図的な設計判断です。複雑さがもたらすリスクを排除するために、機能を意図的に絞り込みました。

DeFiのようなガバナンス攻撃も、フラッシュローンを使った資産収奪も、ビットコインのプロトコルレベルでは構造的に成立しません。17年以上、この設計判断が正しかったことが繰り返し証明されています。

しかし、鍵を握るのは誰か

ビットコインの設計は堅牢です。だが、その恩恵を受け取れるかどうかは別の問題です。

取引所に預けたビットコインの秘密鍵を管理しているのは取引所であり、あなたではありません。取引所の経営が傾いたとき、規制当局が出金を制限したとき、システム障害が発生したとき、あなたはビットコインにアクセスできなくなるリスクがあります。ビットコインのプロトコル自体は止まりません。しかし、あなたとそのプロトコルの間に取引所が存在する限り、実際の管理権は取引所にあります。

DeFiのアルトコインがフラッシュローンで設計ごと崩れる一方、ビットコインは動き続けます。その堅牢さを本当の意味で手にするには、自分で秘密鍵を管理するセルフカストディが唯一の方法です。ハードウォレットを用意し、シードフレーズを安全に保管してください。その一歩が、ビットコインの設計思想の恩恵を完全に受け取れる立場に、あなたを置きます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。

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