手続き中に取引所が消えた|相続BTCがゼロになった3つの経路

相続の手続きをすべて終えれば、BTCは遺族の手元に届く——そう信じて書類を集め続けた家族が、最終的に受け取ったのはゼロだった。

あなたは「自分が死んだとき、家族はBTCを受け取れるか」を考えたことがあるだろうか。多くの人が「遺族が手続きすれば受け取れる」と考えている。しかし実際には、手続きを完了する前に取引所が消えることがある。法的費用がBTCの価値を上回ることがある。そもそも申請を受け付ける窓口が存在しないこともある。

ここに、3つの実例がある。

手続きの途中で取引所が廃業した

ある男性が突然死した。遺族は取引所に相続申請を開始した。ログインに使っていた2段階認証はスマートフォンに紐づいており、遺族はアクセスできない。取引所は本人確認のために大量の書類を要求した。戸籍謄本、死亡診断書、相続関係説明図、印鑑証明書——それらを揃えるだけで数ヶ月かかる。

ようやく書類が揃いかけたころ、その取引所は廃業した。

BTCはゼロになった。申請を開始したことも、書類を用意し続けたことも、何の意味も持たなかった。取引所は消え、対応窓口も存在しなくなり、残ったのは手続きの記録だけだ。

取引所に預けたBTCは、法律上は顧客資産として分別管理義務の対象となる。しかし取引所が廃業すれば手続きは止まる。引き出せるかどうかは、取引所が存続しているかという事実に依存する。秘密鍵を持つのは取引所であり、その取引所がなくなれば、アクセス手段そのものが失われる。

弁護士費用がBTCの価値を超えた

Mt. Gox破綻から約10年。長年返還を待ち続けた債権者の一人が死亡した。

このケースでは、単純な相続申請では終わらなかった。国際的な破産管財手続きの中で相続権を証明するためには、別途の法的手続きが必要だった。専門の弁護士を依頼し、複数の書類を翻訳・公証し、手続きを進めると、費用を試算したところ、保有していたBTCの評価額を超えた。

遺族は断念するほかなかった。

BTCは存在している。破産手続きの中に、受け取るべき枠として計上されている。しかしそれにアクセスするためのコストが、受け取れるBTCの価値を上回るとき、手続きは現実的でなくなる。取引所BTCの相続には、価格だけでなく法的費用という別の変数が加わる。本人の存命中には想定しなかった変数が、死後に発動する。

申請窓口が最初から存在しなかった

3つ目のケースは、構造的に詰んでいた。

日本の金融庁(FSA)に未登録の海外取引所にBTCを預けていた日本人が死亡した。その取引所はすでに規制への対応として日本居住者のアカウントを凍結していた。遺族が相続申請をしようとしたとき、日本語対応の窓口はなく、英語のサポートチャンネルも、相続という事態に対応する手順も存在しなかった。

BTCは今も、そのアドレスに記録されている。ブロックチェーン上のデータは消えない。しかし、取引所の認証を突破できる人間が誰もいない以上、永久にそのままだ。

未登録の海外取引所が抱えるリスクは、価格変動や詐欺リスクだけではない。相続という最も平和的な事態においても、アクセス手段がゼロになりうる。

3つに共通する一つの事実

これら3つの事例に共通するのは「秘密鍵を自分で持っていなかった」という一点だ。

取引所に預けたBTCは、秘密鍵を取引所が管理している。本人が生きているあいだは問題が顕在化しない。しかし死亡した瞬間、秘密鍵を持つのは取引所だけになる。取引所が存続しているか、相続手続きに応じるか、窓口があるか——それらすべてが揃わないと、遺族はBTCにアクセスできない。

セルフカストディは複雑に聞こえるが、本質はシンプルだ。ハードウォレットで秘密鍵を自分の手元に置き、シードフレーズを家族が復元できる形で保管する。そうすることで、取引所の廃業・法的費用・窓口不在という3つの経路からBTCを守ることができる。取引所の都合ではなく、あなたの準備が相続の成否を決める。

今、あなたのBTCが取引所にあるなら、相続の設計はあなた自身が今日始めるほかない。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。

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