連鎖崩壊で最後列になる取引所BTC|2008年の教訓

あなたの取引所に預けているビットコイン、今夜どこにあるかご存知ですか。

画面には残高が表示されています。アプリを開けばいつでも数字を確認できます。しかしその数字が指し示すBTCが、実際に今どこにあり、何に使われているのかを知る手段はありません。リーマン・ブラザーズが破綻した2008年9月の朝、英国の顧客たちも同じ状況にいました。残高は表示されていたのです。ただ、資産が手元に戻るまでに何年もかかりました。

リーマン破綻が暴いた担保連鎖の正体

2008年9月15日、リーマン・ブラザーズが連邦破産法第11条の適用を申請しました。米国での破綻が報道される中、ロンドンに拠点を置く子会社・リーマン・ブラザーズ・インターナショナル・ヨーロッパ(LBIE)も同日、英国の破産管財手続きに入りました。

問題はここから始まります。LBIEの顧客資産は、すでに担保として転用されていました。当時の英国プライムブローカー契約には、証券会社が顧客資産をどれだけ転用してもよいかを制限する規定がほとんどありませんでした。LBIEは顧客の証券を担保に借り入れを行い、その担保はさらに別の取引先へと渡り、連鎖はどこまでも続いていました。

管財人として就任した会計事務所は、顧客資産と自社資産を切り分ける作業に直面しました。しかし複数の当事者をまたいで転用された担保を追跡し、法的に取り戻すには膨大な時間と費用がかかりました。破綻時に自社資産と顧客資産が混在した状態になっていたのは、担保連鎖が複雑に絡み合っていたからです。一部の顧客への返還は数年後にようやく完了したのです。

これは15年以上前の話です。しかし同じ構造は今日の暗号資産取引所の世界にも存在しています。

1枚が複数の契約を支える仕組み

取引所があなたのBTCを担保として使う場合、ウォール街ではこれをリハイポセケーション(再担保転用)と呼びます。

仕組みはこうです。あなたが取引所にBTCを預けると、取引所はそのBTCを担保にして資金を借り入れることがあります。次に、その資金を借りた相手が、手元に来たBTCをさらに別の担保として使います。連鎖はその先も続きます。最初の1BTCが、互いを知らない複数の当事者の間で、2つ、3つ、あるいはそれ以上の契約を支える担保として機能する状態になるわけです。

連鎖が機能している間は誰も困りません。各当事者は返済を続け、担保は形式上どこかに存在することになっています。問題が表面化するのは、連鎖のどこかが切れたときです。一点の破綻が全体に伝播し、多重に担保となっていたBTCの実在を全当事者が同時に主張することになります。

あなたはこの連鎖に自分が組み込まれているかどうかを、リアルタイムで知ることができません。取引所の利用規約に転用を許可する条項が含まれていたとしても、それがいつ、誰に対して実行されたかを追跡する手段はないのです。

破綻手続きで顧客が最後列になる理由

「日本では分別管理が義務付けられているから安心」と思う方もいるかもしれません。確かに日本の資金決済法は、暗号資産交換業者に対し、顧客の暗号資産を自社の資産と分別して管理することを求めています。

しかしここで注意が必要です。分別管理とは管理の形式に関するルールであって、取引所に何か問題が発生したときにあなたがすぐ引き出せることを保証するものではありません。取引所が破綻や出金停止に陥った場合、法的手続きが完了するまで資産は凍結されます。そしてその手続きの中で、担保として転用されていたBTCの回収が必要になれば、さらに時間がかかることになります。

破産手続きでは、担保権を持つ債権者が優先的に回収します。一般の顧客は無担保債権者として扱われ、担保権者への弁済が終わった後に、残余財産から回収することになります。連鎖の中でBTCが多重担保になっていればなるほど、回収できる量が少なくなる可能性があります。

マウントゴックスの事例は記憶に新しいかもしれません。2014年に破綻した同取引所の顧客への返還は、2024年にようやく開始されました。10年間、顧客のBTCはその間ずっと動かせませんでした。取引所が健全に見えていた時期に預けた資産が、10年後に帰ってくる。その間にBTCの価格は何倍にも上昇しましたが、急落局面で逃げることも、別の用途に充てることも、何もできなかったのです。

連鎖の外に出る唯一の方法

リハイポセケーション連鎖が到達できるのは、取引所に預けられたBTCだけです。

あなたが秘密鍵を自分で管理していれば、そのBTCは連鎖に組み込まれようがありません。ハードウォレットに保管されたBTCを担保として転用するには、まずあなた自身が署名する必要があります。あなたが署名しない限り、誰もそのBTCを動かすことができません。これが「Not your keys, not your coins」という言葉の本質です。

秘密鍵を取引所に預けることは、そのBTCの最終的なコントロールを他者に委ねることを意味します。コントロールを持つ者がBTCを動かせる。コントロールを持たない者は、動かしてもらえるまで待つしかありません。

2008年、担保連鎖の外にいた投資家たちは何の影響も受けませんでした。自分の口座で証券を保有し、プライムブローカーに転用を許可していなかった人々です。連鎖が崩れたとき、彼らのポジションはそのままでした。

今すぐ動ける理由

リーマン破綻を機に、各国の金融規制はリハイポセケーションに制限を加えました。欧州や米国では、顧客資産の転用率や透明性に関する新たなルールが整備されました。しかし暗号資産の世界では、規制の整備はまだ発展途上の部分があります。取引所がBTCをどのように運用しているかは、必ずしもリアルタイムで公開されているわけではありません。

ハードウォレットの設定は、以前より格段に簡単になっています。主要機種は丁寧なガイドが整備されており、技術的な知識がなくても設定できるよう設計されています。取引所から出金し、ハードウォレットに移す。このシンプルな行動が、担保連鎖の外に出るための唯一の手順です。

連鎖は崩れるまで見えません。見えない間に動いた人だけが、崩れた後も自分のBTCを持っていました。担保連鎖の中にいるか外にいるか、それを決めるのは今日のあなたです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。

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